CEDAW 日本に強い勧告 選択的夫婦別姓導入や女性議員増など特に強調
古川晶子・ライター|2024年12月26日5:32PM
日本政府のズレた回答
たとえば、日本の法律には部落差別解消法やアイヌ施策推進法、障害者差別解消法などがあるが「マイノリティコミュニティの女性が抱える複合差別にはどのように対応するのか」というバンダナ・ラナ委員の質問に対し、法務省の担当者は「部落差別の解消の推進に関する法律は、議員立法により成立したものでございます。同法は、日本国憲法において保障している表現の自由や内心の自由に配慮し……」などと回答。聞かれたのは、女性が直面する複合差別に対応する法律についてで、部落差別解消法とは何かという検索すればわかるようなことではない。
また、「『慰安婦』について記述の正確性をどう担保するのか」という質問に対し、文科省の担当者は「教科書の情報の正確性については、教科書の案を検定しているところでございます。この教科書検定においては……」と2分30秒にわたって教科書検定の仕組みを説明。「慰安婦」は旧日本軍による性奴隷制度で、アジアを中心に20万人とも言われる被害者がいる。日本政府はその責任を認めず、21年には歴史教科書から「慰安婦」についての記述が削除・変更される事態もあった。こうした経緯を知る委員はそれを踏まえて質問をしているのに、教科書検定の説明をするのでは回答にならない。
5時間に及ぶ審査中、同様の応答が多く見られた。追加質問に対し、最初の質問への回答とまったく同じ回答をして、アナ・ペラエス・ナルバエス議長から「具体的な回答を」と注意を受ける場面も。それは人工妊娠中絶の配偶者同意要件についての質問だ。「配偶者が知れないときや意思を表示することができないとき、また妊娠後に配偶者が亡くなったとき……」と答えたこども家庭庁の担当者に対し、再度、経済条項に関する質問がなされた。そこで担当者は再び「配偶者が知れないときや……」と言い出して議長の注意を受けたのである。しかし担当者は注意の後、ほぼ同じ答えを続ける始末だ。
驚いたことに岡田局長も同様だった。男女の経済格差が著しい日本で女性の政治参画を促進するため、女性候補者の供託金を一時的に減額する可能性を問われたのに「供託金制度といいますのは、真摯に当選を争う意思のない、いわゆる泡沫候補と呼ばれる人たちが出てくることを防止する……」などと制度を説明。問いと答えが合わない上に、女性は泡沫候補だと述べたように思われても仕方がない。2年以内に報告すべき事項に供託金の減額が入ったのは、この応答があったからではないか。
条約の理解不足を露呈
また、皇位継承を男系男子に限定している皇室典範について「男女の平等を確保するための法改正を」と言われた内閣官房の担当者は「皇位継承についてこの委員会で取り上げることは適切ではない」と回答拒否に等しい発言をした。これに対して議長は「日本だけでなく全ての差別的な法律がある国に対して同様の質問をしている。この委員会で取り上げるべき事項だ」と厳しい態度を見せた。
日本政府は女性差別撤廃条約を1985年に批准しており、条約は国内でも力を発揮する。しかし、その理解を疑う応答もあった。裁判で条約が反映されていないことを問われた法務省担当者は「この条約の諸規定は、直接個人の権利義務を規定したものではない」と回答したのだ。個人の権利を対象外にして性差別を撤廃することができるはずがない。そのため勧告では裁判官など司法関係者に、徹底して条約の周知を行なう必要を強調している。恥ずかしい限りだ。
日本政府の対応について、女たちの戦争と平和資料館(wam)の渡辺美奈さんは「委員の的確な質問に対し、代表団はペーパーを読み上げるだけ」とあきれる。「あすには」理事の波多野綾子さんは「残念なことだが、日本政府の審査におけるこのような対応はよく知られている」という。
今回、他国の審査では、質問に対応する答えはもちろん、政府代表が委員に対しさらなる助言を求める場面もあったということで、日本政府と他国の姿勢の違いが際立つ。日本代表団がなぜこのような応答をしたのか男女共同参画局に意図を尋ねたところ「できるだけ誠実に応えようとしたまでで、特段の意図はない」とのこと。審査時の態度が日本政府の「誠実」だとしたら勧告を実現しようという誠意があるのか甚だ疑問だ。市民が注視し、実現を要求していかなくてはならない。
(『週刊金曜日』2024年11月22日号)