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〈ドキュメンタリー映画の祭典〉想田和弘

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員|2025年1月22日8:05PM

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員。

 オランダのアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭(IDFA)に参加した。世界でも最大のドキュメンタリー映画祭で、約100カ国から約3000人のドキュメンタリー映画関係者と、約30万人の観客が集う。

 今回僕は『五香宮の猫』を上映するとともに、インターナショナル・コンペティション部門の審査員を務めた。審査員は5人。僕の他にモロッコ、イギリス、メキシコ、米国の映画作家が審査員を構成した。僕以外は全員女性である。世界各国から選出された13作品を映画館で一緒に観て、食事をしながら、お茶を飲みながら、次の会場へ歩きながら、盛んに意見交換をする。皆の意見が驚くほど一致することもあれば、驚くほど意見が割れることもある。

 特に勉強になるのは、意見が割れたときだ。僕が素晴らしいと思った作品を他の審査員がこき下ろしたり、僕が酷いと思った作品を他の審査員が絶賛したりすると、最初は信じられない想いにかられるが、よくよく相手の意見を聞くと「なるほど」と頷く点もある。だからこそ審査は複数の審査員で行なわれるべきなのだなと腑に落ちる。

 すべての作品を観た後、4時間以上の議論を経て、誰からも異論なくすんなりと全会一致で大賞に選んだのは、ポーランドの『列車(Trains)』(マチェイ・J・ドルィガス監督)だ。20世紀前半に撮影された白黒のアーカイヴ映像で全編が構成された、アーカイヴ・ドキュメンタリーである。蒸気機関車が組み立てられ、ヨーロッパ各地をつないで華やかな文化を形作ると同時に、戦争やホロコーストに悪用されていく様子を描く。冒頭に示されたカフカの引用以外に言葉は一切ないが、巧みに構築された効果音と編集によって、文明の利器の功罪が鮮明に描かれる。その手つきに審査員全員がうならされて、本作には最優秀編集賞も贈った。大賞には1万5000ユーロ(約240万円)の賞金も出された。

 IDFAの後、『五香宮の猫』のドイツ劇場公開のため、ケルン、デュッセルドルフ、ベルリンを回り、どの上映も大盛況だった。また、どの劇場でも今年のベルリン映画祭でドキュメンタリー賞と観客賞を受賞したパレスチナの映画『ノー・アザー・ランド』が公開中だった。親イスラエルのドイツでも無事に公開されることに安堵し、僕は「また会いましたね」と心の中で挨拶をした。同作は日本では2025年2月公開予定である。

(『週刊金曜日』2024年12月6日号)

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