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原発新増設費用を市民から徴収する制度の導入に反対署名

佐藤和雄・「脱原発をめざす首長会議」事務局長|2025年1月23日6:57PM


 政府が原発の新増設を進めるため、建設費などのコストを電気料金に上乗せし、消費者から広く徴収する支援制度の導入を検討している、と報じられている。これに危機感を抱いた国際環境NGO「FoE Japan」などの環境団体や市民団体、学識者らが新制度導入に反対する署名を集め、2024年11月21日に経済産業省の担当者に2万5317筆の署名を手渡した。

署名を手渡す「FoE Japan」深草亜悠美事務局次長(中央)。(撮影/薄井崇友)

「原発の建設費を電気料金に上乗せ、経産省が新制度検討 自由化に逆行」との見出しがついた記事を『朝日新聞』が報じたのは今年7月下旬のこと。記事では「関係者によると、英国で考案された原発支援策『RABモデル』を参考にする。この制度は、国が認可した原発の建設計画について、建設が始まった時点で、建設費や維持費などを電気の小売会社が負担するもの。電気料金に上乗せする形で回収する」などと伝えている。

 11月21日は署名提出の後、経産省の担当者との「意見交換」が1時間程度行なわれ、署名提出側は「FoE Japan」の満田夏花事務局長、原子力資料情報室の松久保肇事務局長、原子力市民委員会の大島堅一座長、明日香壽川・東北大学教授の4人が参加し、経産省側に問いただした。

 まず、満田氏が『朝日新聞』の報道内容を示し「これは本来であれば事業者が担うべきコストとリスクを国民に負担させることにもなりかねず、問題ではないか」と聞くと、経産省担当者は「報道にあるということは承知していますが、原子力発電所の新増設を進めるために英国RABモデルを参考にした制度を検討しているという事実はございません」と否定した。

 その一方、明日香氏がさらに「『朝日新聞』の報道は誤報ということなのか」と確認を求めると、経産省担当者はこう説明した。

「『朝日新聞』報道を誤報と申し上げるつもりはまったくない。ただ(第7次エネルギー基本計画を議論している)審議会で『RABモデルが出口としていいですね』という方向性を示したことはない。方向性は議論の途上にありまして、こういう方向で動いているのではない、ということはお伝えしたい」

事業環境整備が必要

 では、経産省は、どのような方向で動こうとしているのか。

 現在、次の第7次エネルギー基本計画について審議しているのは総合資源エネルギー調査会の「基本政策分科会」。事務局となっている資源エネルギー庁は「おおむね共通認識が得られた内容」として原子力について「建設から発電までのリードタイムや事業期間の⻑さも考慮しつつ、今後の⺠間投資を促進するような予見可能性確保に資する事業環境整備が必要」とまとめた。

 非常にわかりにくい表現だが、ごく簡単に言えば、時間とおカネがかかる原発の新増設には金融機関からの融資が得られにくいので、民間からの投資を促すよう何らかの環境整備が必要だ、という意味と思われる。

 同じ総合資源エネルギー調査会の下にある「原子力小委員会」では、今後の原子力事業について「投資回収や資金調達に係る環境整備」の問題を議論し、英国のRABモデルの利点などが実は、すでに論じられている。それだけに原子力小委員会の委員でもある松久保氏が11月21日の経産省との「意見交換」で「原子力小委員会で経産省からの話を聞いていると、RABモデルを参考に検討している事実はないという回答は、ちょっと言い過ぎではないか」と指摘したのは当然だった。

 石破茂首相は10月31日に政権発足後初めて、「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を開催。政府が策定する脱炭素の国家戦略「GX2040ビジョン」と第7次エネルギー基本計画について、それぞれ年内に素案を取りまとめるよう指示した。

 政府が、RABモデルのような原発新増設を支援する制度の実現に踏み入れるかどうか。議論の途上にあった「方向性」が見えてくるのである。

(『週刊金曜日』2024年12月6日号)

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