11月20日は「トランスジェンダー追悼の日」で、ヘイトクライム（差別や憎悪による犯罪）や自死により亡くなったトランスジェンダーを追悼し、その尊厳と権利について考える国際的な記念日だ。この日、東海林毅さんら97人の映画監督が性的マイノリティ（ＬＧＢＴＱ＋）への差別に反対する声明を発表。映画の制作や発表の過程で起きる差別の事例集も公表し、「映画作品がＬＧＢＴＱ＋の人たちを社会から排除することに加担してはならない」と訴えた。

　２０２４年７月に広島高裁で戸籍上の性別変更を手術なしで認める判決が出るなど、性的マイノリティの人権を尊重する社会に向け進む面もある。一方で、ＳＮＳ上での差別的な言説や政治家等による差別発言なども激しくなっている。声明はこの状況に危機感を抱くもので、「とりわけトランスジェンダーの人々を標的とした苛烈な差別言説が社会に溢れていることに私たち映画監督有志は強い懸念を抱いています」とし、「トランスジェンダーを含むＬＧＢＴＱ＋の人々に対する差別に反対」して「連帯と支持を表明」している。

　発起人代表の東海林さんは性的マイノリティ当事者の一人だ。会見で、東海林さんは「監督有志の声明」としたことについて、映像作品に関わるさまざまな立場のなかで「監督は映画の内容に対して大きな責任を負うため」と説明。多くの映画監督が呼びかけに応じたが、中には「映画業界に性的マイノリティ差別が実際にあるのか」「性的マイノリティ差別の問題は映画と関係あるのか」という声も聞かれたという。そこで、当事者の声を集め、「映像・映画・演劇・芸能業界で働く性的マイノリティ当事者が受けたハラスメント、偏見、差別の事例」として、声明と同時に公表した。

「自分が同性愛者だと思われるのが嫌だという理由で、ゲイを扱った映像作品の宣伝協力を、出演者に断られた（ゲイ／ディレクター）」「ＬＧＢＴＱ監修として現場に参加した際、撮影前にストレートの演出家から『自分は“分かっている”から大丈夫』と釘を刺され、十分な監修・サポートを行うことができなかった。（ゲイ／ディレクター）」などの事例が紹介されている。映像作品に登場する性的マイノリティの姿は、社会の認識に影響を与える。その制作過程で発生する差別やハラスメントを放置しないことは、性的マイノリティを排除しない社会を作るために重要なことだ。

小説家51人も連帯を表明

　会見には、俳優の中村中さんと水越とものりさんも参加。２人は性的マイノリティ当事者としてＮＨＫの連続テレビ小説『虎に翼』に出演している。

　トランスジェンダー女性を公表している中村さんは、トランスジェンダー女性の役でオファーを受けたのに実際は「女装する男性」という設定で、その差異を指摘したが改善されるどころか男性の監督から「あなたが受けなかったら自分が化粧をして出演しようと思っていた」と笑い話にされたことがあるという。水越さんは「誰かが勇気を持つことにつながれば」と思い、同性愛者であることをカミングアウトした。しかしその後、広告案件などの書類審査が全く通らなくなり、社会に差別があることを感じたという。

　俳優はプロデューサーや監督からオファーを受ける立場で、差別やハラスメントに遭っても抗議することが難しい。性的マイノリティの俳優はカミングアウトしていない場合、その理由を伝えることにもハードルがある。水越さんは若い頃、海外ドラマに性的マイノリティの人物が当たり前に登場することで勇気づけられた経験から「日本のドラマにも、ＬＧＢＴＱ＋のキャラクターがもっと登場してもいい」と語った。声明文および事例集はＷＥＢで公開されている。ＵＲＬはhttps://www.statementlgbtq.com/

　また、山内マリコさん、李琴峰さんら小説家51人も同日に「ＬＧＢＴＱ＋差別に反対する小説家の声明」を発表。「文学は、ときに差別や抑圧、排除といった人間の暗い一面を描くこともあ」るが、「すでに社会的に弱い立場に立たされている人々に対し、文学がその生の可能性を狭め、差別や抑圧、排除に加担することはあってはならない」として「ＬＧＢＴＱ＋の人々に対する差別」に反対し「連帯と支持を表明」している。

（『週刊金曜日』2024年12月6日号）