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カネミ油症被害者らが兵庫県「高砂PCBの山」に危険を警告する碑の設置を提言

明石昇二郎・ルポライター|2025年2月6日7:29PM


 兵庫県高砂市にある高砂西港の前には、高さ約5メートル、広さ約5ヘクタールのPCB(ポリ塩化ビフェニル)製の丘が聳え立つ。通称「高砂PCBの山」。地元住民や地元行政関係者の間では「高砂西港盛立地」と呼ばれている。

「警告の碑」文案。「低質土壌」は正しくは「底質土壌」。12月7日の集会に間に合わせようと急いだため誤記が生じた模様。(撮影/明石昇二郎)

 PCB廃棄物特別措置法および同施行令等によれば、PCB廃棄物は2027年3月末までに無害化処理を終えなければならない。だが、この山は同特措法の適用から除外され、無害化処理しなくていいのだという。ここに埋まっているのが「PCB廃棄物」ではなく、1970年代、高砂西港内に垂れ流されたPCBで汚染された「PCB汚染土砂」だからだ。

 かつてこの地で環境汚染を引き起こしたのは「カネカ高砂工業所」を構えるカネカ(旧・鐘淵化学工業。本社・大阪市)など2社。海底の汚染土砂を浚渫して陸上に揚げ、固めた後、その表面をアスファルト等で覆い、その後の「恒久的改修」を経て現在に至っている。この「盛立地」を所管する兵庫県の水大気課を筆者が以前取材したところ「恒久施設としてカネカが費用を負担し、マグニチュード9の地震にも耐えられるよう耐震工事した」とのことだった。

 現在、高砂PCBの山周辺は県の公園「高砂みなとの丘公園」として整備。真下に汚染土砂はないものの、同公園は〝PCBの丘〟に囲まれた格好だ。だが、この地にPCBが埋まっていることを知らせる立て看板や、警告の標識は、公園内に何もない。

 PCBは難分解性物質で、100年経とうが発がん性や催奇性といった毒性が減少することはないとされる。よほどの新技術でも開発されない限り〝PCBの丘〟は半永久的に残り続けるのだろう。PCB処理の困難さを象徴する負のモニュメントでもある。

兵庫県は設置「考えず」

 しかしこのままでは数百年後、事情を何も知らない未来の人類が港の前で立ち塞がるこの丘を「邪魔だ」と撤去してしまう恐れはないのか。そして、せっかく封じ込めたはずのPCBが再び環境汚染を引き起こす恐れはないのか。

 ちなみに原子力発電所を利用することによって生まれる高レベル放射性廃棄物を埋設処分する場所には、未来の人々が誤って侵入したり掘り起こしたりしないよう、さまざまな言語や絵で警告する碑を建てることが検討されている。〝PCBの丘〟が「恒久施設」なら同様の碑が必要不可欠だ――と考えている人たちがいる。猛毒のPCBとダイオキシン類のPCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)が混入した食用米ぬか油を食べてしまった食中毒事件「カネミ油症」の被害者たちだ。

「あまりにも綺麗に造成されていて、何が埋まっているのかさっぱりわからない。あと30年も経てば、この『盛立地』が何で作られたのか、誰もわからなくなってしまう」

 そう語るのはカネミ油症被害者の鈴木文史朗さん(62歳)。12月7日、今年で8回目となるカネミ油症高砂集会「カネカは『世界を健康にする』前に、被害者の健康を取り戻せ」で「高砂みなとの丘公園」に設置する警告の碑の文案(写真左上)が披露された。

 そこで筆者は同公園を所管する兵庫県の齋藤元彦知事にコメントを要請。県からの回答は次の通り。

「知事に代わって、『高砂みなとの丘公園』を管理している加古川土木事務所から回答させていただきます。/高砂みなとの丘公園は、地元地域の方などと整備内容を検討し、平成28(2016)年3月に整備を終え、現在、県民・市民の憩いの場として利用されています。/このような経緯を踏まえ、現時点では、ご意見のあったパネル設置も含め、新たに施設を追加することは考えていません」

(『週刊金曜日』2024年12月20日号)

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