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〈“左翼”はどう読む? “右翼”雑誌編集者の13年〉雨宮処凛

2025年2月6日6:50PM

雨宮処凛・『週刊金曜日』編集委員。

『「〝右翼〟雑誌」の舞台裏』(星海社新書)という本を読んだ。『WiLL』や月刊『Hanada』の編集部に13年あまり所属した梶原麻衣子さんの著書だ。思想が「右寄り」という理由で採用され、未経験でその世界に入った彼女が、舞台裏を書いている。

 といっても曝露本ではない。彼女の真摯な模索や違和感が綴られ、その果てにフリーになるまでが描かれている。

 読んでいて、懐かしい感覚を幾度も思いだした。それは私が20代前半の2年間、右翼団体にいたからで、その頃の心象風景を思い出したのだ。

 思わず「そうそう」と口に出しそうになったのは、彼女が「左翼」との対話を望むくだり。右翼時代、私は戦争や戦死者への評価は別にして、今の日本で戦争や戦死者について考えているのは右翼と左翼くらいなのだから、スタンスが多少違っていたり、たとえ真逆だったりしても、話せば共感できるのではと思っていた。それは多くの右翼の人もそうだったと思う。

 しかし、その後、左系の人と多く出会い、気づいた。左翼側は、右翼をそもそも対話の相手・対等に話せる相手などと認識していないことのほうが多いのだと。もちろん、それは右翼側の普段の振る舞いもあるのだろう。が、中を知っていた私にとっては、「そもそも対話する価値もない」というようなスタンスに驚いたものである。

 ちなみに私が右翼だった1990年代は、右翼と左翼が言論でバトルするような「左右激突」系イベントが少なくなかった。しかし、いつからかそんな場はなくなり、左右の分断は深まっていった。そうして時間が経ち、「慰安婦」問題をめぐる映画『主戦場』を観た時は絶望的な気持ちになった。右派・左派で、ここまで見えている世界が違うのかと。もう分断の修復は不可能に思えた。鈴木邦男氏の死去でその思いを強くした。

 安倍晋三元首相への評価もそうだ。梶原氏は、安倍氏をYOASOBIの「アイドル」の歌詞「金輪際現れない一番星の生まれ変わり」になぞらえる。これも左派にはあり得ない発想だろう。

 しかし、「こんなに面白い仕事があるのか」とまで思っていた彼女は、その世界を去る。

「一定方向に論調を尖らせていくという作業が、筆者にはもう面白いことではなくなってしまった」という言葉にドキッとした人は、ぜひ、手にとってほしい。

(『週刊金曜日』2024年12月20日号)

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