NHK「かんぽ不正」番組を巡る訴訟は経営委議事録公表で和解
臺宏士・ライター|2025年2月10日3:02PM
かんぽ生命保険による不正販売を追及したNHKの「クローズアップ現代+」(2018年4月放送)の続編取材を巡り、元NHK職員や市民らが、かんぽ側の抗議に沿う形で経営委員会が同年10月に上田良一会長(当時)に厳重注意した際の議事録、録音データの開示と損害賠償をNHKと森下俊三・経営委員長(24年2月退任)に求めた訴訟は24年12月17日、東京高裁(舘内比佐志裁判長)で和解が成立した。東京地裁(大竹敬人裁判長)が24年2月、NHK側に録音データの開示と賠償を命じた判決に対して、NHKと森下氏が控訴していた。
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原告側が同日開いた記者会見で明らかにした主な和解内容は、
▼NHKは非公表としてきた議事録(18年10月9日、同23日・厳重注意、11月13日)をホームページで公表する(12月18日に公開)。
▼森下氏は解決金として原告側の98人に一人1万円を支払う。
――の2点。
厳重注意は19年9月に『毎日新聞』のスクープによって明らかになった。取材現場では18年10月30日の放送で続報することを目指していたが中止となり、放送できたのはかんぽ側が不正を認めた後の19年7月だった。こうした経緯を知る手掛かりとなる議事録について、森下氏は当初「議事録はない」などと野党によるヒアリングに答えていたが、高市早苗総務大臣(当時)から議事録作成の対応を指摘されると一転して存在を認めた。この時に公表したのは「議事経過」という不十分な内容だった。
視聴者らからの情報開示請求に背を向け続ける経営委員会に対して、情報公開・個人情報保護審議委員会は二度にわたって開示を答申(20年5月、21年2月)したがこれにも従わなかった。NHKは提訴された後の21年7月になって「粗起こし」とする記録を開示した。NHKが今回公表した議事録は粗起こしと同じ内容だ。放送法41条は「委員長は、経営委員会の終了後、遅滞なく、その議事録を作成し、これを公表しなければならない」と定め、2週間程度で公表されるが、6年以上も要した。
議事録には森下氏が「今回の番組の取材も含めて、極めて稚拙といいますかね(略)取材はほとんどしてない」「彼ら(かんぽ側)の気持ちは納得していないのは取材の内容(略)。経営委員会は番組のことは扱わないのでこう(ガバナンス問題として)言ってきている」と発言するなど生々しい番組介入の実態が記録されている。これに対して上田氏は「これ(厳重注意)が外に出たときには、やはり相当の問題になり得る可能性がある」などと反論していた。
報道が冷淡なメディアも
澤藤大河弁護士は会見で「訴訟で獲得目標としたのは、隠蔽されたNHK経営委員会議事録の公表であり、経営委員長の責任の明確化だ」とし「放送法32条2項(個別の放送番組の編集への関与の禁止)違反に加担した当時の経営委員会諸氏には、猛省を促したい」と声明文を読み上げ「完勝と言って差し支えない内容」と語った。
画期的な和解だが、在京メディアの扱いは大きく割れた。12月17日夜の主な報道番組ではNHKが「ニュースウオッチ9」で2分間、取り上げただけで民放は報じなかった。在京6紙では同18日朝刊で『朝日新聞』『毎日新聞』が第三社会面のトップ記事で掲載し、『東京新聞』も翌19日朝刊の第二社会面で大きく報じた。『産経新聞』は囲み記事、『読売新聞』『日本経済新聞』はミニニュース扱い。
『信濃毎日新聞』は社説(19日)で「番組制作への介入について、NHKは自ら徹底して検証する責任を果たさなければならない」と指摘した。経営委員会は厳重注意を撤回すべきだろうが、壁は厚そうだ。『朝日新聞』によると、森下氏の後任として24年3月に経営委員に就いた古賀信行委員長は「(議事録を読んで)私は番組介入したという感じはほとんど受けていない」と報道陣に語ったという。報道機関を率いるトップとしての資質に疑問符がつく発言だ。首相が経営委員を任命する現行制度を改めるしかない。
(『週刊金曜日』2025年1月10日号)