考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

【タグ】

防衛省が辺野古基地埋め立てで奄美の土砂採取地調査

平野次郎・フリーライター|2025年2月10日3:09PM

 沖縄県名護市の辺野古新基地建設をめぐり、沖縄防衛局が辺野古北側の軟弱地盤が広がる大浦湾の埋め立て土砂を鹿児島県の奄美大島から調達するための調査を進めている。防衛省は埋め立て土砂を沖縄県内で調達できるとしていたが、沖縄戦激戦地の本島南部からの土砂調達に対し「戦没者の遺骨が眠る」として反対運動が広がり、県内だけでは調達が難しくなる事態を想定したとみられる。これに対し辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会(以下、土砂全協)が奄美大島からの土砂調達に反対する署名運動を昨年11月末から始めた。

2024年9月、土砂調達反対の要請書を手渡す阿部悦子さん(左端)ら。(提供/辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会)

 大浦湾側埋め立て工事は、国が申請した設計変更を沖縄県に代わり国が承認する「代執行」を経て昨年1月に着手。奄美大島からの土砂調達については共同通信が4月、「政府関係者への取材でわかった」として防衛省が今年初めにも調達を検討、遺骨交じりの土砂を使用することへの「批判を避ける狙いもあるとみられる」と報じた。その後、沖縄防衛局が8月に奄美大島の奄美市、瀬戸内町、龍郷町、大和村の4市町村に採石場などを調査する計画を説明、9月末から現地調査を開始した。

 こうした動きに対し9月中旬、土砂全協の阿部悦子共同代表らと土砂全協に加わる「自然と文化を守る奄美会議」のメンバーが採石場を見て回り住民から聞き取り調査を実施。4市町村長宛てに土砂搬出に反対の意思を表明することなどを求める要請書を提出した。

 土砂全協の署名運動は防衛大臣と沖縄防衛局長宛てに「奄美大島からの辺野古埋立用材調達を断念すること」「辺野古・大浦湾の埋め立て工事を直ちに中止すること」を求めている。主な反対理由として、次の2点を挙げる。

▼島内の多くの採石場で住民が土砂採取に伴う粉塵や振動、海の汚染などに長年悩まされ、これ以上の生活・自然破壊は許されない。

▼那覇空港滑走路増設の埋め立てに使用された奄美大島からの土砂について、沖縄県が2015年に施行した「公有水面埋立事業における埋立用材に係る外来生物の侵入防止に関する条例」に基づいて調査したところ、ハイイロゴケグモやオオキンケイギクなどの特定外来生物が確認されている。

迷走する土砂調達計画

 土砂調達計画は迷走している。13年に沖縄防衛局が申請した資料では、埋め立てに必要な土砂2100万立方メートルの主体となる岩ズリ(土砂混じりの砕石)の必要量は1644万立方メートル。それを上回る2500万立方メートルを調達可能量として、そのうち約3割を沖縄本島北部2カ所で、約7割を九州・瀬戸内6県7カ所で調達できるとの計画だった。

 ところが大浦湾の海底が「マヨネーズ状」の軟弱地盤であることが判明。それを受けて20年4月に沖縄防衛局が申請した設計変更の資料では、岩ズリの必要量は1690万立方メートルで当初より少し増えただけだが、調達可能量は3・7倍の9316万立方メートルへと大幅に増え、そのうち沖縄県7カ所と九州4県11カ所でほぼ5割ずつ調達できる計画に変更された。防衛省は沖縄県内だけで岩ズリを調達できるとしたが、その背景には沖縄県の外来生物侵入防止条例施行によって外来生物の調査や侵入防止策の届け出が必要となったことが考えられる(本誌21年6月18日号詳報)。

 一方、沖縄県内で岩ズリを調達するとして追加した5カ所の中に沖縄戦激戦地の本島南部が含まれていることについては「戦没者の遺骨が眠る土を戦争のための基地建設に使うのは死者への冒涜だ」とする遺族らの反発が強い。防衛省はこれまで岩ズリを本島北部から調達してきたが、大浦湾の埋め立てが本格化する中、県内調達可能量の約7割を占める本島南部からの調達に踏み切れないまま、奄美大島を中心に沖縄県外からも調達する方針に転じたとみられる。

 沖縄防衛局は筆者の取材に対し「奄美大島の調査の日程や調査箇所などについては返答を控える。沖縄本島南部については、ご遺骨の問題は真摯に受け止め、適切に事業を進めていく」と述べた。

(『週刊金曜日』2025年1月10日号)

【タグ】

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

増補版 ひとめでわかる のんではいけない薬大事典

浜 六郎

発売日:2024/05/17

定価:2500円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ