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「プレサンス冤罪事件」国賠裁判結審 法廷で検事の“怒号”映像公開
粟野仁雄・ジャーナリスト|2025年2月17日7:23PM
「検察舐めんなよ」「ふざけんじゃないよ」。
昨年12月20日の午後、大阪地裁202号法廷に設けられた大型のスクリーンから広い廷内に怒号が鳴り響いた。取り調べ室で検察官が発した声を記録したものだ。
大阪市の不動産会社「プレサンスコーポレーション」の元社長・山岸忍さんが学校法人の土地売却をめぐる業務上横領罪で大阪地検特捜部に逮捕・起訴されたが無罪となり、国に賠償金を求めて起こした訴訟(※)の弁論でのことだ。この日は原告代理人の一人、秋田真志弁護士が少し解説した以外は映像上映のみの約40分で閉廷。これで本国賠訴訟は結審となり、3月21日に中間判決が言い渡される。
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今回公開された映像は2019年の11月と12月に行なわれた取り調べの模様だ。怒号の主は当時、大阪地検特捜部の検事だった田渕大輔氏で、怒号を浴びたのは山岸氏の部下だった元部長のK氏だ。
同地検特捜部では10年、郵便不正事件に関連した主任検事による証拠改竄事件が表面化していた。この取り調べでは当初、その件を引き合いに「世間に叩かれました」「特捜部って名前だけは偉そうだけど、一番監視の目が強く窮屈な思いをさせられる部署なんです」などと穏やかだった田渕検事だったが、次第に机を叩くなどしながら激高。口を挟もうとするK氏に「反省しろよ。何開き直ってんだ」「命かけてるんだよ、俺たちは。あんたたちみたいに金かけてるんじゃねえんだ」「金なんかより大事な人の人生を天秤にかけて仕事してるんだよ」などと畳みかけた。
閉廷後の記者会見で山岸元社長はこの映像に言及。「見られて錯覚された方も多いと思いますが、Kさんが嘘をついたのではなく、田渕検事が嘘をつかそうとしたのです。特捜部といえどもそれには大変なパワーがいるようですね」と皮肉った。秋田弁護士も「Kさんに対して妻への取り調べもにおわせるなど非常に卑劣な取り調べ」と述べ、特捜部側の意図について「プレサンス社が学校法人に貸しつけた金について情報を社内で共有していたという言質を引き出そうとした。会社として情報共有していなかったら山岸氏の横領にならないからです」などと説明した。
正義感から生じる捏造
法廷で上映された25分ほどの映像を見る限り、田渕検事がKさんの供述を嘘ではないと知りながらも演技で怒鳴っている、とは筆者には思えなかった。
そこで筆者は会見で「Kさんが嘘をついていると信じ込んだうえで正義感から怒鳴っており、芝居ではないのでは」と質問したが、これに対して原告代理人の一人で検察官出身の中村和洋弁護士は「基本的には正義感だと思います」と回答。冤罪を作ろうとして起訴することはないが、思い込みや視野の狭さから「嘘をついているに決まっている」と信じ込んでしまう検事の発想こそが根本的に間違っていると説明した。
中村弁護士はさらに「主任検察官(当時は蜂須賀三紀雄検事=現神戸地検刑事部長)は事件の全体を捉えていましたが、田渕検事はそうではなかった。事実でない供述を引き出そうとすればああなってしまうんです」とも解説した。検事らは主任から「こういう供述を取ってこい」と指示されると、ひたすらそれを取ることだけに猛進する。要は供述を積み上げての帰納法ではなく、最初から見立て(犯行の筋書)を決める、いわば演繹法的な形で立件するのだ。
映像では田渕検事が背中姿、Kさんの顔の部分にはモザイクが施されていた。中村弁護士によれば国側はKさんの顔が出たままの映像を証拠として出してきたが「Kさんは少しも怖がっておらず供述は信用できる」と主張したという。
山岸元社長は昨年10月、蜂須賀検事が違法な取り調べを黙認し、その結果自分が不当に身体拘束をされたとして、同検事を特別公務員暴行陵虐や特別公務員職権濫用罪などで大阪高検に告発。田渕検事も付審判請求により、特別公務員暴行陵虐罪容疑で指定弁護士が検察官役を務める刑事裁判にかけられる予定だ。
※『週刊金曜日』では2022年4月8日号、同10月21日号、24年6月28日号で既報。
(『週刊金曜日』2025年1月17日号)
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