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日比谷エリマネ土地建物訴訟、住民が訴え取り下げ決着
岩本太郎・編集部|2025年2月17日7:31PM
東京都千代田区が区内の再開発ビル「東京ミッドタウン日比谷」に所有する土地と建物の一部を、三井不動産が他の企業などとともに設立した一般社団法人日比谷エリアマネジメント(エリマネ社)に2016年から無償で貸与し、同法人が多額の利益を得ているとして、地元住民が樋口高顕区長に対して2021年11月に起こした訴訟(※1)が決着した。
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同裁判では昨年以来、裁判所による和解提案の下に原告側(住民3人)と被告側(千代田区)との間で協議が進められており、12月13日に同区とエリマネ社が、同社の収益の用途などについての覚書を締結。これを受けて同月16日の弁論準備期日の場で原告側が意見を述べたうえで訴えを取り下げた(被告側も同意)。26日に同区内の司法記者クラブで開かれた会見で、原告代理人の大城聡弁護士は「勝訴を超える成果が得られた」と訴訟終結の意義を説明した。
もともとこのエリマネ社問題は石川雅己・前区長の「マンション購入疑惑」問題の解決のため20年に同区議会が設置した百条委員会(※2)による調査で発覚した。区の財産である土地建物が区議会の承認もないままタダで貸与されたばかりか、その事実すら報告されていなかったというものだ。
これについて前記の住民3人は区に住民監査請求を行なったものの請求期間が過ぎた不適法な請求として21年10月に却下されたことを受けて翌月には裁判に訴えた。請求内容では16年に区がエリマネ社と結んだ使用貸借契約(20年間)に関して被告が①契約条項に基づく見直し協議を行なっていない、②締結当時の石川区長と坂田融朗まちづくり担当部長(現副区長)に損害賠償請求(約6300万円)を行なっていない、という2点が違法であることの確認を求めた。
住民監査請求では区に門前払いを食った格好だったが、東京地裁は前記2点のうち、①については請求期間による制限は及ばないとして審理対象に入り(②は監査請求期間徒過の問題ありとして審理に入らず)、昨年4月17日には原告・被告双方のプレゼンテーション、5月15日には区およびエリマネ社の担当者に対する証人尋問も実施された(ただし前記の坂田氏への証人尋問は日程が確保されたものの結局行なわれなかった)。
そのうえで地裁は双方に対し、区の財産を保全するために被告とエリマネ社との間で覚書を締結する方向での和解協議を提案。今回の決着へと至った――というのがここまでの経緯だ。
契約の抜け道塞いだ覚書
その覚書だが、区とエリマネ社が16年に結んだ基本協定に基づき3条を定めている(以下は要旨)。
(1)基本協定が定める対象施設はミッドタウン広場にある地下2階~地上2階までの建物を含む。
(2)同広場の運営などで生じた収益は修繕や施設更新等にあてる積立金とし、「善良な管理者」の注意をもって管理する。
(3)基本協定の失効後は積立金の全額は区に帰属する。
会見で大城弁護士は、これらによってエリマネ社が不当に利益を懐に入れる「抜け道」を塞ぐことができたと説明。過去に遡って、これまで積み立てた金が区の財産として明確化されたことも含めて「住民自治によって地方自治体の財政上の問題が是正されるという本来の地方自治法の趣旨に適った形での結論になった」と評価した。
ただ、同時にここでは住民訴訟という枠組みの限界も示された。かりに住民側が勝訴した場合でも、判決に則して区とエリマネ社側が見直しの協議をしたうえで「その結果、何も変えないことにした」とすることもできるからだ。
また、前記の通り本契約締結の当事者である坂田氏は現在副区長であり、本裁判でも証人尋問は行なわれず。しかも協議の中では区は和解案提示後に和解延期や内容変更を求めてきたという。原告の一人、小山みつ子氏は「年明けの千代田区長選挙(25年1月26日告示、2月2日投開票)への影響を避けたかったのでは」と会見で語った。千代田区政の深層に潜む問題は解決にほど遠いようだ。
※1 『週刊金曜日』2022年6月24日号で既報。※2 同20年11月20日号で既報。
(『週刊金曜日』2025年1月17日号)
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