原発事故汚染土再利用めぐる環境省ヒアリングで明白に IAEA基準にすら合致せず
まさのあつこ・ジャーナリスト|2025年3月7日8:57PM
福島県の中間貯蔵施設(双葉町、大熊町)に保管されている原発事故で放射能汚染され、取り除かれた土壌(以下、汚染土)の再利用についての環境省ヒアリングが、1月16日に開催された。参加者は、実証事業が計画されている東京都の新宿御苑周辺や埼玉県の所沢市民、そして国会議員だ。

環境省は昨年9月、国際原子力機関(IAEA)から汚染土の再利用は「安全基準に合致している」とした報告書(以下、IAEA報告書)を受け取った。翌10月には放射線審議会にその基準について諮問。内容は、公衆が受ける追加被曝が年1mSv(※1)を超えないことと、汚染土の放射性セシウム濃度を8000Bq/kg(※2)以下にすることについて意見を求めるというものだ。
ヒアリングは、IAEA報告書と現状の間に存在する幾多の矛盾の是正を求めるものとなった。
矛盾の一つは、IAEA報告書には東京ドーム11個分の汚染土について「福島県内外で再利用することを認め、残りの土壌を2045年までに福島県外で最終処分することが日本の法律で謳われている」旨の記載があることだ。この「法律」とは何かとの質問に、環境省は「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」第3条で「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」と定めていると回答。「必要な措置」を「汚染土の再利用」だとIAEAに信じ込ませたのだとわかった。
二つ目の矛盾点はIAEA報告書の「環境省は、目指すべき線量レベルは、地域住民や市町村などの利害関係者と協議して決定することを制度に明記する」との記載だ。現状、いかなる法律にもそのような明記はない。矛盾を問われた環境省は「実証事業の説明を行なった時から住民の理解が重要だと言ってきた。表現は検討し、ガイドラインに書く」と誤魔化した。
これに参加議員が疑義を唱えた。山添拓参議院議員は「『協議』とは納得を得て合意を図ることだ」と詰め、福島みずほ参議院議員は「『協議』は『説明』とは違う。法律に明記すべきだ」と強調。だが環境省は「ガイドラインに書く」と繰り返すばかり。吉良よし子参議院議員は「ガイドラインでは拘束力は弱い。『協議して決定』すると書き込むべきだ」と断言した。
議論を通じ深まった矛盾
福島議員はさらに「『利害関係者』とは誰か。全国の公共事業で再生利用をするなら、希望者が全員協議に参加することを保証するのが環境省の責任だ」と求め、環境省は「利害関係者は事業ごとに違う。地域によっても違う」と回答。これには山添議員が「事業や地域によって変わるものを『基準』とは言わない」と呆れ返った。
IAEAは放射線防護の3原則(正当化、防護の最適化、線量限度)の概念を採用しており、「防護の最適化」とは合理的に達成可能な範囲で被曝線量を低減することを利害関係者(ステークホルダー)が参加して決めることを意味する。IAEA報告書でも「線量水準は、地域住民や自治体などのステークホルダーと相談して決定」と書かれており、この認識が問われたにもかかわらず環境省は「どういう方に声がけするかは、これから決める」と回答。矛盾は深まった。
議論は、環境省が8000Bq/kgの汚染土を使っても作業者や公衆の被曝は「放射線障害防止措置を講じることなく」年1mSvを超えないと、放射線審議会等で説明したことにも及んだ。高エネルギー加速器研究機構名誉教授の黒川眞一氏が環境省の線量計算を検証したところ、8000Bq/kgの汚染土で盛土をする場合、作業を1000時間に限定し、厚さ2・2cmの鉄板を敷かなければ年13・2mSvの被曝をするとわかった。この点を指摘された環境省は「鉄板の上で移動するなどいろいろな条件をおいて年1mSvになる」と回答。これまでの説明が覆った。ところが、その翌17日、環境省は放射線審議会からの答申さえ待たずに、今年4月からの汚染土利用を可能とする基準案について意見募集を開始した。強引過ぎる。
※1 mSv=ミリシーベルト。
※2 Bq/kg=ベクレル/キログラム。
(『週刊金曜日』2025年1月24日号)