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『神奈川新聞』記事に横浜市が「公平性」求め抗議 「報道の萎縮」狙う圧力か

吉永磨美・ジャーナリスト|2025年3月7日9:04PM

『神奈川新聞』が昨年11月から12月にかけて掲載した、横浜市営の室内総合競技場「横浜国際プール」(同市都筑区)の再整備や、山下埠頭(同市中区)の再開発などに関する記事4本について、横浜市が神奈川新聞社に「読者に偏った印象を与える」などの懸念を示しつつ、同社の見解を問い質す文書を複数回にわたり手渡していた。同紙は1月10日朝刊の記事でこの件を公表し、その中で「公平性を担保した記事掲載を求める」などと書かれた同文書の内容を紹介。同文書については「報道の萎縮」を目的とした圧力との判断の下、「抗議文」という扱いで報じた。

自社の市政報道に対する横浜市の「抗議文」問題を報じた1月10日付『神奈川新聞』紙面

 同記事によると、対象とされたのは11月20日から12月11日までに横浜市の市政に関して報じた記事4本だ。同市政策経営局のシティプロモーション推進室報道課にも確認したところによれば、同文書の中で同市が挙げた『神奈川新聞』の掲載記事は以下の通り。

〈国際プール再整備関連〉

「補助プール新設検討 主要大会継続目指す」(11月20日朝刊)

「『練習用』6億円試算」(12月11日朝刊)

〈新庁舎のセキュリティ関連〉

「開かれた庁舎を 市民有志が請願 『閉鎖的と批判』」(12月5日ウェブ配信、後に朝刊掲載)

〈山下埠頭再開発関連〉

「『市民参画強化』は否決 一方的、不安の声も」(12月10日朝刊)

 いずれも同市の公共事業や市庁舎をめぐる動きを報じたものだ。

 4本中2本がテーマとしている横浜国際プールに関しては、同市が昨年6月に再整備計画の素案を公表。現在は夏季にプール、冬季に体育館として運用しているメインアリーナの機能を体育館に一本化のうえメインプールを廃止する方針を示した。前述した国際プール関連の記事では同市がそうした方針に至った経緯について、外部監査報告書に言及して報道。同市がプロバスケットボールBリーグの新たなアリーナ基準を念頭に、市庁内で検討を進めていた流れについても独自に入手した市の内部文書に基づいて報じた。

 さらに、この再整備計画の素案については水泳団体が反発。中高年や障害者が参加する競技会の運営にも支障を来すとして、見直しを求める動きが出ていることも記事では伝えている。なお、他の記事では新庁舎のセキュリティゲート開放などを求める市民団体の市議会への請願活動や記者会見の様子、山下埠頭再開発の方向性に関する答申案を協議した検討委員会の議論について報道している。

市長は「把握せず」

 前出の横浜市報道課によると、同文書に関しては同市の報道担当部長が前記4本の記事掲載当日や翌日の計3回(11月20日、12月6日、同12日)にわたり神奈川新聞社を訪問。同社に対し同文書(抗議文)を提出したうえで趣旨を説明し、前記それぞれの記事に関する市側の見解を述べたうえで、神奈川新聞社としての回答を求める文書も手渡している。

 いずれの文書も提出先は同社編集局、差出人は同市の報道担当部長で、作成も報道担当部長の決裁の下に行なわれた。文書は記事ごとに計4通作成。同課は「市の見解を示しているもので、抗議文などとは書かれていない」と説明している。政策経営局長に報告のうえ提出したが、山中竹春市長には報告しなかったという。文書の具体的な中身を尋ねると、同課は情報公開制度を利用した請求に基づいて開示するとした。

 1月9日の定例記者会見で山中市長はこの件に関連して、文書の提出経緯や内容については把握していないと説明している。

 会見では、市の職員や幹部が独断で報道機関に抗議文を送ったのではないかとの質問が出た。これに対して山中市長は「内容に関して疑義があったから、そこに関して説明を求めたということだ。すべて市役所全体で共有する必要が必ずしもないんじゃないですか」と答えている。

(『週刊金曜日』2025年1月24日号)

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