五輪汚職事件で逮捕の角川前会長が国賠訴訟 国は争う姿勢
竪場勝司・ライター|2025年3月7日9:12PM
東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件で、大会組織委員会の元理事への贈賄罪で逮捕・起訴された出版大手「KADOKAWA」の角川歴彦前会長(81歳)が、否認することで身体拘束が長期化する「人質司法」により苦痛を受けたとして、国を相手取り2億2000万円の損害賠償を求めた裁判の第1回口頭弁論が、1月10日に東京地裁(中島崇裁判長)で開かれた。角川前会長は「『人質司法』は憲法違反で、国際人権法違反。まさに人間の尊厳を汚すものだ」と訴え、国は争う姿勢を示して請求棄却を求めた。

角川前会長は元理事にKADOKAWAを大会スポンサーに選定することなどを依頼し、計約6900万円の賄賂を渡したとして、2022年9月に東京地検特捜部に逮捕され、翌月に起訴された。角川前会長は捜査段階から一貫して容疑を否認している。
訴状などによると、角川前会長は拘置所で排泄を含む生活全体を24時間監視された。角川前会長は心臓の持病があり、勾留によって病状が悪化したため弁護団は病院での治療を希望したが、許可されなかった。「生命の危険がある」として保釈請求も行なったが、検察側は証拠隠滅の可能性などを理由に反対し、東京地裁も請求を却下した。容疑を自白した他の共犯者は早期に保釈される一方、無実を訴える角川前会長だけが保釈を却下され続けた。五度目の請求でようやく認められ、23年4月に保釈された。逮捕以降の身体拘束は計226日間に及んだ。
訴えでは、こうした身体拘束は刑事手続きで無罪を主張し事実を否認または黙秘した被疑者・被告人ほど容易に身体拘束が認められやすく、釈放されることが困難である「人質司法」だと批判。検察や裁判所によるこうした運用は、推定無罪の原則や不当な身体拘束を受けない権利を定める憲法、国際人権法に違反しているとし、「人質司法」によって刑事裁判で無罪を争うことについての萎縮効果が生じている、と指摘している。
「殺されるかと思った」
10日の弁論では、弁護団長の村山浩昭弁護士が今回の裁判の目的について「わが国の刑事司法の在り方そのもの。『人質司法』と呼ばれる実態を明らかにし、それが憲法や国際人権法に照らして決して許されないものであることを立証し、改革・改善を進めることにある」と意見陳述した。
この日の陳述で角川前会長は、逮捕時の模様について「手錠腰縄がホテルから東京拘置所の中まで続きました。私は読み上げられた被疑事実に身に覚えがありませんでした。反論を述べる余裕もなければ、弁護士に相談する機会もないまま東京拘置所に放り込まれました」と振り返った。
当時、心臓大動脈瘤の手術を受けたばかりだった角川前会長は10種類以上の薬を常用していたが、検察官や拘置所に薬の手配を要望したが聞き入れられず、226日間の身体拘束中、常用していた薬をすべてそのまま服用することはできなかった。「生きるために最低限の医療すら受けることができない環境に閉じ込められることになったのです。私は、検察と拘置所の医療体制には大きな問題があり、ここで殺されるかと思いました」と語った。
大川原化工機事件で無実の相嶋静夫さんが身体拘束が長期化した結果、治療が手遅れになって亡くなったことを釈放後に知った角川前会長は「同じ拘置所にいた私はまったく他人事だと思えませんでした。生きて外に出られた以上、自分が相嶋さんに代わって、その想いを世に伝えなければならないと感じました」と陳述。「裁判所と検察庁には、まず『人質司法』というものが現に存在することを認めてほしい。私と相嶋さん、そしてこれまで身体拘束をされてきたすべての人たちが人質司法の証人です」と訴えた。
国側は答弁書を提出したが、原告側の「『人質司法』が憲法違反や国際人権法違反にあたる」との主張については、直接的には答えていない。次回の口頭弁論は4月25日に開かれる。
(『週刊金曜日』2025年1月24日号)