【タグ】大川原化工機
大川原化工機事件担当の警視庁公安部捜査員ら不起訴に 検察審査会に審査申し立て
粟野仁雄・ジャーナリスト|2025年3月7日9:25PM
噴霧乾燥機を中国に不正輸出したという外国為替及び外国貿易法(外為法)違反容疑で「大川原化工機」(横浜市)の大川原正明社長ら3人が2020年3月に逮捕され、翌年に起訴が取り消された事件をめぐり、後に同社より「虚偽の文書を作成した」などとして告発され、虚偽有印公文書作成・同行使などの疑いで書類送検されていた当時の警視庁公安部の捜査員3人について、東京地検は1月8日、不起訴(嫌疑不十分)とした。

これについて大川原化工機側は「警視庁と同じ捜査機関である検察庁の判断で刑事事件が打ち切られることには納得いかない。不起訴ありきで形式的に手続きが進められたのではないか」(逮捕された元取締役の島田順司さん)などと強く反発。検察審査会に起訴を求める審査を1月17日に申し立てた。
告発状、および同事件をめぐり現在行なわれている国賠訴訟の一審判決(23年12月=後述)などによると、当時取り調べを担当していた安積伸介警部補(現警部)は、弁解録取書(被疑者が逮捕直後に警察官や検察官に弁解した内容を記載した書面)の内容について、「事実と違う」と修正を求めた島田さんに対し修正したふりをして署名・捺印をさせた。島田さんがそれに気づいて抗議したため弁解録取書は作り直されたが、検察庁へ一緒に送られるべき修正前の書面はシュレッダーで破棄。部下の巡査部長は現場に立ち会っていた。
また、安積警部補の上司だった宮園勇人警部(後に警視に昇格、すでに退職)は立件にマイナスになるデータなどを外した虚偽内容の捜査報告書を作成した。噴霧乾燥機は液状の原材料に熱風を送り込んで粉末にする装置で、コーヒー粉末や粉ミルク、医薬品などの製造に使われるが、乳酸菌などを生きたまま粉末にすることができ、完全な殺菌ができるなら炭疽菌などの危険な菌を作業員が被曝せずに製造できる。そのため生物兵器の製造に転用される恐れがあるとの理由から輸出規制の対象とされ、警視庁公安部は大川原化工機の製品も、これに該当すると解釈。同社が経済産業大臣の許可を受けずに「兵器に転用できる形で噴霧乾燥器を中国に輸出した」として立件しようとした。しかし公安部の実験で、噴霧乾燥機には温度が上がらず殺菌できない部位があるとのデータが出ていた。
大川原化工機側の告発を受けた警視庁捜査2課は昨年11月、捜査を担当した3人を書類送検した。今回の不起訴について東京地検は「罪を認定することに疑義があり、事情を総合考慮した」としたが、不起訴の理由を明らかにしていない。警視庁は「地検の処分については答える立場にない」とする。
国賠訴訟は5月28日判決
大川原化工機をめぐる捜査では大川原社長や島田さんとともに、1年近い長期勾留をされた顧問の相嶋静夫さんががんが進行しながら保釈を認められず病死するという悲劇を生んだ。同社代理人の高田剛弁護士は「犯罪の成否について裁判所の判断を仰ぐ機会が奪われることは不当。警察犯罪が繰り返されないようにするためには裁判所の判断は不可欠だ」と語る。
同社が東京都(警視庁)と国(検察庁)に対し総額約5億6500万円の損害賠償を求めた訴訟では東京地裁が23年12月、逮捕や起訴を違法と認定し、計約1億6000万円の賠償を都と国に命じた。これについて原告・被告の双方が控訴。同社側は「経済産業省の解釈を捻じ曲げたことなどが明らかにされていない」とした。なお、一審では23年6月の口頭弁論に出廷した濵崎賢太、時友仁の両警部補が、前述した安積、宮園両氏らの捏造を認める証言をしたほか、昨年10月の口頭弁論でも夫馬正浩警部補が、公安部の幹部が経産省に強引に強制捜査へのゴーサインを出させた経緯などを暴露した。機械類の輸出規制を所管する経産省が当初、同社の噴霧乾燥機を外為法に違反するといえないとしたものの、公安部の押しで「ガサ(家宅捜索)だけならいい」と捜査を容認したことも裁判の過程で明らかになっている。東京高裁の判決は5月28日の予定だ。
(『週刊金曜日』2024年1月24日号)
【タグ】大川原化工機