齋藤元彦・兵庫県知事追及の急先鋒だった元県議を追い詰めた“脅し”とは
粟野仁雄・ジャーナリスト|2025年3月7日10:21PM
齋藤元彦・兵庫県知事をめぐる文書問題の真相を追及してきた元同県議の竹内英明氏(50歳)が、1月18日夜に姫路市の自宅で亡くなった。自殺だと見られている。齋藤知事は同20日に報道陣の取材に応えてお悔やみの言葉を述べ、「時には厳しい質問もいただいたが、兵庫を良くしたいという強い思いの表れだったと受け止めている」と話した。

姫路市出身の竹内氏は、会社員生活を経て姫路市議を務めた後に県会議員に当選。昨年の時点では5期目だった。昨年11月投開票の兵庫県知事選挙では齋藤氏を支持した「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が、当時県議会の百条委員会で委員だった竹内氏と奥谷謙一委員長(自民)、同じく委員の丸尾牧議員(無所属)の3人を標的とし、奥谷氏自宅前での遊説では「出てこい」と声を上げ「これから丸尾と竹内のところに行くぞ」とがなり立てた。それに呼応した人たちも嫌がらせや脅しを続けたことから、竹内氏は妻子の安全のために昨年11月に議員を辞職していた。
「昨年12月25日の百条委員会後に電話しましたが、『まだ前向きにはなれない』と話していました。それが最後でした」と語るのは、竹内氏が県議の当時所属していた会派「ひょうご県民連合」の上野英一幹事長。「竹内君は学生時代から奥田(敬和・元衆議院議員、元運輸大臣)さんの秘書を務めるなど、若い時から政治に明るく、性格的にもヤワではまったくなかった。立花氏があんなことをしてきてもやり返すようなバンカラな面もあった。ところがあの当時は『妻が立花の脅しに怯えて錯乱状態なんです』と訴えていました」と振り返り、唇を噛んだ。
文書問題で昨年5月に県からの懲戒処分を受け、7月に死亡した渡瀬康英・元県民局長の妻からは「主人がこの間、県職員の皆さんのためを思ってとった行動は、決して無駄にしてはいけないと思っています」などとする文書が百条委の事務局には送られていた。
ただ地元のある関係者は「悲痛な思いを百条委へ訴えたのが渡瀬さんの死の5日後という早い時期だったことから、『傷心の奥さんにそんなことがすぐできるだろうか。実は竹内議員が書いたのではないか』という噂が結構ありました。亡くなる直前の渡瀬さんが最後に連絡し合っていたのが竹内さんだったと見られています」と打ち明ける。
渡瀬氏と竹内氏は名門進学校として知られる県立姫路西高校の先輩後輩でもあった。竹内氏をよく知る丸尾県議も「奥さんに頼まれたのかもしれない」と話す。
立花氏は問題投稿を削除
立花氏は、竹内氏死去を知った1月19日午後に自身のX(旧ツイッター)で「竹内元県議は、昨年9月ごろから兵庫県警からの継続的な任意の取り調べを受けていました」「こんな事なら、逮捕してあげた方が良かったのに」と発信。ユーチューブチャンネルの動画では「明日逮捕される予定だったそうです」とも発信した。立花党首は、竹内氏の自殺の原因が自分だとみられることをかわそうとしたのだろう。
兵庫県警の村井紀之・本部長は翌20日の午前に開かれた県議会の警察常任委員会でこの件について「事案の特殊性にかんがみて」と断ったうえで「(竹内氏について)被疑者として任意の調べもしたこともなく、逮捕するといった話はまったくない」「明白な虚偽がSNSで拡散されていることについてはきわめて遺憾」との異例の発言をした。立花氏はこの直後に「警察の捜査妨害になる可能性があるので」として前記投稿を削除。「事実と異なることをインターネットで発信したことについて、謝罪させていただきます」とした。
一方で同日、県庁で記者団から立花氏への対応について問われた齋藤知事は「立花氏のSNSの詳細は拝見していない。SNSは理性的に運用されることが大事だ」とかわした。しかし一連の問題についてそうした無難な官僚答弁を繰り返していては求心力は低下していくばかりだろう。
(『週刊金曜日』2025年1月31日号)