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展示見直し問題で長崎原爆資料館を前川喜平さんら訪問 「負の歴史伝えてこそ」

南輝久・言論の自由と知る権利を守る長崎市民の会代表|2025年3月7日10:32PM

 長崎市平和公園にある長崎原爆資料館の展示内容見直しをめぐり1月23日、元文部科学事務次官の前川喜平さんとジャーナリストの金平茂紀さん(元TBS「報道特集」キャスター)が同館を訪問。日本の負の歴史(侵略と加害)に関する展示を改変・縮小しないよう求める共同申し入れ書(学者、文化人、ジャーナリスト20人連名)を、同館の井上琢治館長、調漸・運営審議会長、そして同市の鈴木史朗市長に対して提出した。同館が被害の実相を伝え、世界に核兵器廃絶と恒久平和を訴え続けるためには、被害だけでなく加害についても事実をしっかり継続展示することが不可欠だ、とする内容で、他に田中優子さん(法政大学前総長)、和田春樹さん(東京大学名誉教授)、笠原十九司さん(都留文科大学名誉教授)らが賛同した。

長崎原爆資料館で井上琢治館長(右)に共同申し入れ書を手渡す前川喜平さん。(撮影/南輝久)

 同館は被爆80年の2025年を機に展示リニューアルを計画。24年度中に展示更新基本設計、25年度中に実施設計を策定し、26年度に施工する方針だ。計画については同館運営審議会の中に歴史学者を含めた小委員会を設けて審議を続けているが、同館が24年11月に示した基本設計案(中間報告)をめぐり、加害の歴史に関する展示が改変・縮小される可能性が取り沙汰されている。具体的には、

①現在は年表形式で「日清戦争と日露戦争」「中国と朝鮮(日本の植民地支配)」などのパネル展示があるが、基本設計案ではカットされ、第1次世界大戦から始まる構成になっている。

②日本の負の歴史に最も関わる「日中戦争と太平洋戦争」のコーナーの名称がなくなり、「二つの世界大戦」に変えられている。

③同コーナーのタッチパネル式ビデオ(「満州事変」「日中戦争」「太平洋戦争」など10項目)の維持を明記しておらず「南京大虐殺」の表記も改変される可能性がある。

――などが指摘されている。同コーナーの位置に「休憩スペース(情報提供コーナー)」が新設され、スペースの制約を理由に負の歴史の展示を縮小する恐れもある。

なぜ優れた展示を改変?

 こうしたことから、前川さんと金平さんは今回、市民団体などで構成する「世界に伝わる原爆展示を求める長崎市民の会」(共同代表=川野浩一・長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会議長、本田孝也・長崎県保険医協会会長)の関係者とともに同館で井上館長に面会。「今の長崎原爆資料館の展示は日中戦争のビデオなど良くできていて、被爆の実相と原爆投下に至る歴史の流れがしっかり理解できる。これを維持拡充こそすれ、改変・縮小するようなことは絶対やめてほしい」と申し入れた。

 前川さんは「実証的に積み重ねられた歴史学を歪曲しては世界の信頼を得られない」と強調。金平さんは「フランスからの若い来館者3人に話を聞いたら、被爆者の証言ビデオに泣きそうになったと言っていた。こうした原爆被害の訴えも、それと表裏の関係にある加害の展示をきっちりと行なってこそ伝わる」と語った。

 これに対し井上館長は「歴史を見つめることが未来につながる。若い世代にも自分事として考えてもらえる展示を目指したい。要望内容や運営審議会の意見も踏まえながら慎重に検討する」と答えた。

 前日の22日、前川さんと金平さんは長崎市民会館で前記「市民の会」が主催したトークイベントに出席。前川さんは「吉田松陰の獄中の遺言集といわれる『幽囚録』で、後の大日本帝国の侵略の青写真が示された。蝦夷、琉球、朝鮮、満州、台湾、ルソン――その考えが山縣有朋らへつながる。長崎市がそうした流れではなく、なぜ欧州の戦争ともいえる第1次世界大戦から展示を始めるのかがまったく理解できない」と疑問を呈した。

 金平さんは「1997年を分水嶺として、大日本帝国に戻りたいという政治家が数多く出てきた。欧米でも歪んだ形のナショナリストがすごい勢いで広がっている。しかし、歴史の事実は事実。幼児期から真偽を見極める目を養い、賢い有権者を育てていくことが必要だ」と語った。

(『週刊金曜日』2025年1月31日号)

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