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〈最後の砦〉想田和弘

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員|2025年3月7日9:32PM

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員。

 結婚しても、夫も、妻も、それまで親しんできた自分の姓を名乗りたい。誰にも迷惑をかけぬ個人的な願いであり、選択である。なのに、それを日本で実現するのは大変だ。そのことを改めて実感している。

 僕と柏木規与子は、1997年、夫婦別姓のままニューヨーク市で結婚した。だが、日本の役所に婚姻届を出すには、どちらかの姓を夫婦の姓として選ばなければならない。結婚時に同姓が強制されるのは、世界広しといえども日本だけだ。

 2018年、僕らはそれを不当だとして日本国を訴えた。すると21年、東京地裁は、米国の法律に則った僕らの別姓婚は、日本でも有効だと結論づけた。そこで22年、改めて東京・千代田区に婚姻届を出したが別姓を理由に受理されない。なので僕らは東京家庭裁判所に不服申し立てをした。千代田区長は、同じ姓を選ばぬ僕らの婚姻自体が無効だとして、激しく争ってきた。

 その審判が1月10日、ようやく出された。

家裁は僕と柏木の婚姻は有効であるとし、区長の「別姓結婚無効論」を退けた。だが、区が別姓を理由に婚姻届を受理しないことは容認した。

 実におかしな判断である。それでは日本の戸籍制度は僕らの有効な婚姻を把握できなくてよいという結論になってしまう。実際、僕や柏木の戸籍には婚姻の事実は記載されていないので、その気になれば重婚だってできてしまうだろう。僕らは高裁へ即時抗告をした。

「夫婦同姓別姓選択制」の実現が、なぜこの国ではこんなに難しいのか。裁判を通して感じるのは、「夫婦同姓強制制度」こそが、家父長制的な家制度を守りたい人たちにとっての最後の砦だということだ。もちろん、家制度自体はすでに廃止され、存在しない。しかしだからこそ、その残滓ともいえる夫婦同姓の強制にこだわるのであろう。

 少数だが、その人たちが日本の権力の中枢にいて、激しく抵抗している。選択制が実現しても、彼らはこれまで通り夫婦同姓を選べるのだから、そんなに頑張らなくてもよいと思うのだが。

 去年の衆議院選挙の結果、国会の勢力図が変わった。立憲民主党は、この機運に乗じて民法改正案を提出するという。結局は裁判所ではなく、国会が解決するしかないのだから、正しい道だ。期待しすぎないように期待している。

(『週刊金曜日』2025年1月31日号)

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