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〈ほんの少しのボタンの掛け違いで〉雨宮処凛

雨宮処凛・『週刊金曜日』編集委員|2025年3月7日10:36PM

雨宮処凛・『週刊金曜日』編集委員。

 1月、「このまま失業するかも……」という恐怖体験をした。

 新年早々、頸椎を痛めてしまったのだ。

 原因ははっきりしている。重い荷物を持ったまま、顔の前で南京錠を解錠、ということを何も考えずにやった結果、おかしくなってしまったのだ。

 最初は大したことないと思っていた。洗濯物を干す時に腕が上がらないな、くらいだった。しかし、痛みはどんどん強くなる。整骨院に行くと少し良くなったので安心し、ヨガに行ったのがいけなかった。ある朝起きると、首や背中の痛みは激増。動かすだけで「首折れた?」というような恐ろしい音がして頭もガンガン痛み、吐き気までするではないか。

 そこで病院に行けばよかったものの、初めてのことなので何科に行けばいいかわからずにマッサージへ。が、全然良くならず、数日後、やっと辿り着いたのが整形外科。

 レントゲンを撮ったところ頸椎を痛めているとのことで、何種類もの薬をもらい、湿布を貼ったらやっと少し良くなったのだった。

 ここまで、約2週間。その間、ほとんど使い物にならない状態が続いていた。それでもなんとか原稿を書いたりインタビューを受けたり打ち合わせをしていたものの、まったく本調子ではなかった。

 そんな痛みと吐き気の中で思ったのは、「このまま治らなかったらどうしよう」ということだ。

 この頃、トランプ氏が大統領に就任したり、フジテレビの会見が批判を浴びたり、渦中の中居正広氏が引退を発表したりと世の中は激動していた。が、どんなニュースを見ても「首が痛い」しか考えられず、腕の痛みでキーボードすらマトモに打てない状態。

 もし一生、このまま治らなかったら――。あっという間に仕事を失うだろう。

 そう思って、「貧困」への扉はすぐそばにあることをまざまざと感じた。今の生活が奇跡的なバランスの中で成り立っているだけで、ほんの少しのボタンの掛け違いで崩れてしまうものなのだと痛感した。本当に、頸椎のほんの少しのズレとかで。

 貧困問題に関わって、今年で19年。この焦りと恐怖と「こんなはずじゃなかったのに」という無念さを、決して忘れないようにしようと改めて、思った。首はまだ痛い。

(『週刊金曜日』2025年2月7日号)

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