米大統領選 女性敗北の背景 男性優位構造が「女性に脅かされる」危機感あり
山田道子・ライター|2025年3月7日10:02PM
議席の半分を女性にすることを目指す市民団体「クオータ制を推進する会」(通称「Qの会」)が1月9日、「アメリカ大統領選と女性議員」をテーマに勉強会を開催。ライシャワー日本研究所の客員研究員としてマサチューセッツ州・ボストンに滞在する三浦まり上智大学教授が米大統領選とジェンダーの関係、女性議員や女性知事をめぐる状況について報告した。
大統領選ではカマラ・ハリス氏が民主党の候補となり、「米国初の有色女性大統領の誕生か」と盛り上がったが、叶わなかった。
CNNの出口調査によると、黒人男性やヒスパニック系の男性が民主党から離れる傾向をみせ、白人女性が若干共和党支持を弱めたという。三浦氏は「米国では女性リーダーがいたるところにいて、女性の権利は日本以上に保障されている。その中で、男性優位の構造が女性やマイノリティに脅かされていることに危機感を持ち、巻き返そうという流れが明瞭に出た。今後も引き続きあるだろう」と考察。注目したのは教育の差の影響が大きかったことだ。
「大卒は民主党、非大卒は共和党への支持を強めた。学歴には階級が結びつき、学歴格差は経済格差につながる。米国のリベラルはエリート層で、経済格差に苦しむ人たちに届くメッセージを発せなかった」と分析した。
日本も他人事ではない。勉強会の司会を務めた「Qの会」の山崎摩耶・元衆院議員はこう語る。
「米国の政治が保守対リベラルではなく、『格差』が焦点であることがよく分かった。日本でも格差への不満が高まっており、『手取りを増やす』と訴えた国民民主党は昨年の衆院選で大きく議席を伸ばした。教育や経済の格差問題はジェンダー問題でもある。米国の轍を踏んではならない。日本のリベラルは、格差を是正する政策やジェンダー平等政策を本気で打ち出さなければならない」。
三浦氏は、民主党支持が強い「青い州」では、自分の好みにあう情報にしか触れない「フィルターバブル」に陥り、分析が楽観的になるとも指摘。これも日本のリベラルが教訓とするところだろう。
米大統領選と同時に行なわれた米連邦議会下院選(定数435)と上院選(定数100)。女性は、上院で25人が当選し割合は25・0%、下院は1人減の125人で28・7%だった。日本では昨年10月の衆院選で73人の女性が当選。当選者に占める割合は過去最高ではあるが15・7%にすぎない。参院の女性議員は現在61人で25・4%だ。

地方政治で人材を育てる
三浦氏は「米国の特色として、女性は民主党から立候補することが圧倒的に多い。従って共和党が勝つ選挙では女性はあまり増えない」と下院で1減の背景を分析。「日本も同じ。女性議員の数は野党がどれだけ議席を取れるかとリンクしており、昨年の衆院選のように自民党が苦戦すると女性議員が増える。だが、自民党の女性候補者を増やす働きかけもしないと、再び女性議員が減るという状況になりかねない。初当選した女性が2期目も立候補できるように支えることも重要だ」と提言した。
三浦氏が注目するのは地方政治だ。全米50州のうち女性知事は13人で民主党8人、共和党5人。州議会では女性が5割を超えているところもあるという。首長の経歴は多様で、マサチューセッツ州のマウラ・ヒーリー知事(民主党)は、レズビアンを公表して当選した初の知事。ミシガン州のグレッチェン・ホイットマー知事(民主党)は、下・上院議員を経て知事になり、未来の大統領を目指しているそうだ。ケイ・アイヴィー・アラバマ州知事(共和党)は80歳で活躍している。
一方、日本の女性知事は東京都と山形県の2人。圧倒的に少ない。国政に関わる女性を増やすためにも首長や地方議会など地方政治に関わる女性を増やし、多様な人材を育てることが重要な課題だ。
(『週刊金曜日』2025年1月31日号)