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山梨リニア工事差し止め控訴審、東京高裁で弁論が続行中 住民側が「対質尋問」要求

樫田秀樹・ジャーナリスト|2025年4月1日9:58PM

 JR東海が「2034年以降」の開業を目指すリニア中央新幹線(以下、リニア)が完成すれば、高架橋による日照阻害や騒音被害が生じるほか、土地が分断されて利用価値がなくなるなどの理由で山梨県南アルプス市の住民6人が工事差し止めと補償を求めた訴訟(19年5月提訴)は、昨年5月28日に甲府地裁で原告敗訴の判決が下った(※)。しかし判決で「被害は起きる」と認定されながら「JR東海が補償するから」などの理由で請求棄却された住民は直後に控訴(同年6月8日付)。今年に入り2月5日には東京高裁(木納敏和裁判長)で第2回口頭弁論が行なわれた。

南アルプス市のリニア建設予定地では立ち退き者が増加。だが、ルートから1メートルでも離れれば立ち退き補償の対象にならない。(撮影/樫田秀樹)

 筆者は一審・甲府地裁での口頭弁論をほとんど毎回傍聴したが、看過できなかったのはJR東海が準備書面に自らの主張は展開する一方で、原告の訴えにほぼ無反応だったことだ。この点についてはこの日の口頭弁論でも原告代理人の梶山正三弁護士がこう訴えた。

「地裁では原告側の8人の証人尋問に対し、被告は一切反対尋問をせず、こちらの準備書面(で出した求釈明)にもほとんど答えなかった。また、地裁ではリニアの公共性について審理しなかった。ついてはリニアにどういう問題があるかの尋問を対質尋問(原告と被告とが並んで証言台に立ち、それぞれの代理人からの尋問を受けること)はできないものか」

 まだまだ裁判での手続きが必要だと主張する原告に対して、木納裁判長は「判決を出す機は熟していると考える」との判断を示すも、原告側に「一つの事実(問題点)だけではなくリニア計画が全体的に公共性がないのであれば、その証拠を出してほしい」と要請。「原告と被告の双方が、どういう解決を図りたいのかを確認したい」と発言した。

 裁判における解決には主に判決か和解しかない。はたして今回の弁論終了後、東京高裁は非公開で原告と被告の双方に「補償金」という形で和解の方向性を示した。だがJR東海は「特別の地域だけに手厚い補償はできない」としてこれを拒否。リニアルート近くの住宅への補償という前例を認めることを避けたと推測される。

「個別交渉には応じない」

 住民側にとっても、たとえ補償金を手にしたとしても「引っ越し+建て替え」が不十分となれば、結局日陰と騒音下で生きることになるため根本的解決にならない。今回の口頭弁論終了後、住民側が開いた報告集会でも今後どのように闘うかについても話し合われたが、印象的だったのは原告の一人による発言だった。

「リニアルートは幅約22メートル。ただし工事になればルート近くで本来立ち退きの対象にはならない家屋までが工事ヤードのため立ち退かされるはずだ。それを防ぐには、裁判のほかにも住民が土地の明け渡しを認めないことが必要ではないだろうか」

 確かに住民が判を押さない限りJR東海は工事ができない。この集会に参加した、リニアの事業認可の取り消しを求める行政訴訟で訴訟団長を務めている川村晃生氏は次のように発言した。

「山梨県中央市では600人以上がリニア工事阻止のために立ち木トラストを展開しているが、彼らに加えリニアルートに土地を持つ地権者6人が先日『リニアに土地を売らない地主連盟』を結成した。心がけているのは『個別交渉には応じない』ことです」

 個別交渉とは換言すれば「個別撃破」だ。全国各地の公共・大型事業では一般住民は交渉のプロに太刀打ちできず、提示された数千万円もの補償金額を近所の井戸端会議で話すわけにいかないまま、やがて誰にもあいさつすることもなく引っ越していくのが通例だ。

「個別交渉に応じない」やり方は神奈川県相模原市のリニアルート周辺の地権者数十人が交渉窓口を弁護士に一括した例でも見られるが、確かに同地ではJR東海や自治体からの個別交渉は止まっている。今後、南アルプス市の原告はどう闘っていくだろうか。次回の口頭弁論は5月28日13時半。東京高裁511号法廷の予定だ。

※本誌2024年6月7日号で既報。

(『週刊金曜日』2025年2月21日号)

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