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〈女性差別撤廃委員会への脅し?〉田中優子

田中優子・『週刊金曜日』編集委員|2025年4月1日8:28PM

田中優子・『週刊金曜日』編集委員。

「楽しい日本」の「日本列島改造」を語った石破茂首相の施政方針演説もつっこみたいし、ようやく国会らしさが見えてきた予算の論戦も興味深い。しかしその矢先に出てきたのが、政府による「金はやらない」という趣旨の、国連・女性差別撤廃委員会への脅しとも言える措置だった。

 委員会は昨年、皇位を男系男子に限る皇室典範は女性差別撤廃条約と相容れないとし、改正を勧告した。これは批准国に対して当然おこなうべき委員会の仕事である。

 それに政府が抗議した。第一に、皇位につく資格は基本的人権に含まれていないことから、皇室典範において皇位継承資格が男系男子に限定されていることは女性に対する差別に該当しない。第二に、皇位継承の在り方は、国家の基本に関わる事項であるから、女性差別撤廃委員会において皇室典範を取り上げることは適当でない。皇室典範の改正勧告は削除されるべきである。

 そして日本が国連側に支払う拠出金の使途から女性差別撤廃委員会を除外することと、本年度に予定していた同委員会委員の訪日プログラムの実施を見合わせる、という報復措置を発表した。

 国連憲章はその前文で「基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念を改めて確認し、(中略)一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進する」と述べる。だから日本も国連を中心とする世界秩序に入っている。では何が問題なのか?

「資格を男系男子に限っても差別に該当しない」という日本政府の見解には差別の認識が欠如している。日本にはこれまで何人も女性天皇が存在した。委員の訪日プログラムは日本の伝統・文化に対する理解を深めてもらうことを目的としていたという。そうであれば女性天皇も伝統であることを、委員はご存じだろう。しかし近代になり、あえて男系男子に限ったのである。

 その背景には1871年の戸籍法の制定があったと思われる。そして75年の平民苗字必称義務令で全国民が姓をもち、戸主を筆頭とする家父長制が整備された。天皇を頂点とする家族制度の完成である。後に夫婦同姓が義務付けられた。この家父長的家族制度の維持のために、天皇は男系男子でなければならないのだ。天皇家が差別的なのではなく社会が差別的であり、天皇家はそれを「象徴させられている」のである。

(『週刊金曜日』2025年2月14日号)

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