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映画『Black Box Diaries』伊藤詩織監督のインタビューを終えて この国を覆うブラックボックスを開けるには日本公開が必要

石橋 学・『神奈川新聞』川崎総局編集委員|2025年4月3日6:21PM

 伊藤詩織さんが監督した『Black Box Diaries』(以下、BBD)の日本公開が決まらない。上映は57の国と地域に広がり、米国のサンダンス映画祭でお披露目されて1年2カ月がたつ。米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画部門で日本人監督として初めてノミネートされるという過去にない評価も得た。ところが肝心の日本社会に作者のメッセージが届けられないのだ。異常で異様な事態である。

『Black Box Diaries』から。(©Black Box Diaries)

 待ったをかけているのは、あろうことか守秘義務があるはずの伊藤さんの元代理人弁護士たちだ。性暴力の現場となったホテルの防犯カメラ映像や捜査員の音声、タクシー運転手の映像などが許可なく使われていることを問題視している。2024年10月に続く2月20日の記者会見ではしかし、問題は別のところにあるのではと思わせる発言が目を引いた。

 角田由紀子弁護士は「恩を仇で返してはいけない」と言い、職務であった弁護活動を、恩を与えたかのごとく語った。「どうしてそんなことができるのと、普通の日本人としては思った」とも語り、伊藤さんは「普通の日本人」とは違うとでもいいたげだった。

 佃克彦弁護士は事件を担当した捜査員は公益通報者であり、取材源の秘匿というジャーナリズムの鉄則も守られていないと説いてみせた。だが、善良ぶって耳打ちしてくる権力者こそ疑ってかかるのが記者の仕事だと私は心得る。その意味で捜査員の発言は自己保身や懐柔に聞こえる。男女関係をちらつかせるに至っては、性暴力の被害者に対する不祥事として告発するべきものといえ、まさしく権力監視というジャーナリズムの本分をBBDは果たしている。そのような見方もできると直接指摘しても専門家でもない佃氏は理解が及ばない様子だった。

 伊藤さんは会見と同じ日に声明を発表し、西廣陽子弁護士の電話の声を使ったシーンはすでに削除し、その他に許諾が取れていない人は特定されないよう対処すると約束した。

 しかしこれで一件落着とはならないのだ。「もっと早く説明していれば支援者が分断されることもなかった」。そんな責任の押しつけを含む文句を、伊藤さんを支援してきたという新聞記者やジャーナリストたちが繰り返している。「取材源は守れ」「このシーンはいらない」といったまるで伊藤さんが素人であるかのような物言いから、果ては「周りの人をもう少し良く描くこともできたのでは」と言ってのける不遜。元代理人に重なる態度に、私は伊藤さんへの偏見と「支援してあげた者」への見下しを見る。

 伊藤さんはBBDを通して性暴力被害者を苦しめる「被害者らしさ」を求める風潮を壊したかったという。元代理人やかつての支援者は自分たちが望むような映画ではなかったからこそ拒絶を示しているのだろう。そうした感じ方もしかし、多くは違法ダウンロードした作品を回し見をした同業者(私には案内がなかったのでより限られている)の内輪のものでしかない。そこから浮かび上がるのは、一部の特権者が「はみだし者」をよってたかって叩くムラ社会、ニッポンの姿だ。

 ハリウッドからパリへ渡った伊藤さんにオンラインでつながったのは3月9日、国際女性デーの翌日のことだ。まちには日本とは比較にならない人々がデモに繰り出していたという。

「おかしいことにおかしいと声を上げる姿に連帯を感じました」

 生きるため、これからを生きる次世代のため、真摯に映画製作に向き合った彼女の言葉をかみしめたい。この国を覆うブラックボックスは、日本で公開してこそ開かれる。

※参考:2025年2月20日に伊藤詩織さんの代理人である師岡康子、神原元両弁護士が発表したコメント

(『週刊金曜日』2025年3月21日号)

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