改正入管難民法による「永住資格」取り消しの懸念に署名1万筆超
石橋学・『神奈川新聞』記者|2025年4月11日1:24PM
「『帰る国』のない若者の永住許可を取り消さないで!」
そんな呼び掛けに寄せられた1万1339筆の署名が2月17日、政府へ提出された。税金の滞納や軽微な法律違反を理由に永住許可を取り消せるようにした改正入管難民法(出入国管理及び難民認定法)の成立から8カ月余り、差別立法がもたらす深刻な懸念や被害がすでに生じている。

改正入管法は2024年6月、自民、公明の与党に加え、日本維新の会、国民民主党など野党の賛成もあって成立した。技能実習に代わる外国人労働者の受け入れ制度「育成就労」の創設に併せたもので、中長期に在留する外国人が増えるのを見越し、最も安定的な資格の永住許可を取り消せるようにするというちぐはぐな代物だ。モノを扱うように外国人を都合に合わせて増やしたり減らしたりしようとの発想からして差別的だ。
これまでも虚偽の申告をしたり、1年を超える懲役や禁錮刑に処せられた場合は永住資格を取り消すことができた。それが今回の改正では、税金や社会保険料を故意に納めなかったり、入管法の義務を順守しなかったりと、対象となる事由を拡大。より容易に取り消せるようになった。
そもそも税を滞納すれば国籍に関係なく税法に基づき追徴課税などがなされる。だが、外国籍の永住者にはさらに資格の取り消しという二重のペナルティーを科す。それも軽微な違反を理由に生活基盤を奪うというアンバランスさで、国連人種差別撤廃委員会も「永住者の人権への不均衡な影響を憂慮する」として、日本政府へ見直しを求める書簡を送っている。
不安は尽きない。署名を届けたのは永住資格を持つ当事者や家族、友人ら20代、30代の若い世代でつくる「永住許可有志の会」。27年施行予定の同法が「少しでも安心できるものになってほしい」とガイドラインに関する要望書も提出。取り消しの検討には、▼不安定な経済状況や心身の健康、家庭環境に配慮する、▼当人の来歴や言語能力など国籍国での生活能力と安全性を考慮する、▼日本生まれ日本育ちなど多様な背景を持つ当事者がガイドラインの作成に関わり、意見を反映させる場を設ける――ことなどを求めた。
新たなデマによる差別も
東京都内で会見した米国籍で会社員のエマさん(仮名、30代)は「日本で生まれ育ち、国籍国は帰れる場所ではない。政府は私たちの声をほぼ聞かずに法案を通してしまったので、今からでも不安が解消されるガイドラインをお願いしたい」と話す。施行まで2年余りあるが、すでに影響が生じているという。「独立してフリーランスで働くこともあると思っていたが、今は現実的ではない。公租公課の不払いが永住資格の取り消し要件に加わったので、収入が不安定なフリーはリスクが高すぎる」。
同じく米国籍のハンナさん(仮名、30代)は「留学で日本以外の国に住んだ経験があるが、私にとって帰る国は日本。資格の取り消しが何をもってどう判断されるかが分からず、帰る国が奪われてしまったようだ」と不安を吐露する。日本人と永住者の親を持つマリさん(仮名、20代)も「私のようなミックスルーツは、家族がばらばらにされる危機感を持って暮らすことになる」と声を落とす。
親族に当事者がいる別のメンバーは「永住資格を持つ約90万人のうち、未成年は約11万人。若者たちの未来にも影響する」と影響の大きさを強調した。法案審議の中で当時の小泉龍司法務大臣が、ガイドライン作成では当事者と意思疎通を図ると明言したことに触れ「少しでも安心できるものになるよう、法相の言葉を心の支えにしている」と訴えた。
差別立法を支える社会と政治情勢は何をもたらすのか。「法改正をきっかけに永住者は公租公課の未払い率が高いというデマが広がり、ヘイトが高まった」。エマさんも言う。「外国人を管理するのが入管法。それに注文をつけるのはただでさえ怖い。何より当事者の声も聞かずに早く通ってしまったことに驚いている」。
(『週刊金曜日』2025年2月28日号)