裁判官による誤った判断によって有罪の確定判決を受けた、冤罪被害者を救済する再審制度――。日本では「開かずの扉」と言われるほど再審へのハードルが高かったが、昨年３月に超党派で発足した「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」（以下、議連）は２月26日に総会を開き、再審に関する刑事訴訟法の一部を改正する議員立法の骨子案を取りまとめるとともに、今国会に法案を提出し、その成立をめざす方針を確認した。

　議連に参加した衆参両院の国会議員は発足時には１３４人だったが、この日までに３７２人に増え、衆参両院議員全体の半数を超えた。ただ、２月26日の総会に出席した国会議員は46人、代理人の出席は78人にとどまっており、再審法改正への熱意がどこまで広がっているかは不明だ。

　これまで各党から実務者が２回集まって改正案の内容を議論。この日の総会では、骨子案の起案を担当してきた衆院法制局の課長が説明にあたった。

　改正内容は４点に絞られているが、そのうち二つが最も重要と思われる、検察官に関係するものだ。第一が「再審請求審における証拠の開示命令」。裁判所が「相当だ」と判断すれば、検察官に証拠の開示を命じることができるという内容だ。「再審請求審では、検察官の手持ち証拠（特に裁判所に提出されていないもの）を提出させ、それを精査することが再審理由の判断にとって重要であることから、再審事件に関する証拠を請求に応じて原則として開示させることを制度化した」と説明している。

　第二が「再審開始決定に対し、検察による不服申し立て（抗告や異議申し立て）」を禁止する改正である。「再審開始決定に対する検察官側の不服は、再審公判において十分争うことが可能であることから、これを禁止することで再審請求手続きを迅速に進めるべきこととした」のが理由である。

　他の２点は①再審請求審では、原審の裁判に関与した裁判官を、除斥・忌避の対象とする。②裁判所が必要と認める場合には、再審請求手続きの期日を指定できるなど手続き規定を整備する――という内容だ。

法制審議会の議論に懸念

　再審制度の見直しについては、法務省がこの１年で態度を大きく変化させている。昨年６月に議連が「再審法改正を求める要望書」を当時の小泉龍司法務大臣に手渡した際、その翌日の大臣記者会見では「慎重かつ丁寧な検討が必要だ」と述べ、具体的な対応は何も示さなかった。

　しかし、現在の鈴木馨祐法務大臣は２月７日の記者会見で「法制審議会に諮問し、法整備について検討していただくこととします」との新たな方針を突然、示したのだ。その底意は推し量るしかないが、議連による改正案の議員立法が今国会で成立する可能性があるため、その機運を低下させようとする法務省幹部もしくは検察側の意向が反映しているのではないだろうか。

　議連の柴山昌彦会長（自民党衆院議員）もこうした疑念を抱いているようだ。２月26日の総会で、「法務省は検察庁を抱えている組織なので、どうしても検察庁に判断の軸足が重きをおかれてしまうのではないかという懸念があるところだ」と率直に述べた。さらに「各党の実務者に党内手続きをとっていただきたい。各党が合意すれば迅速に今国会中に成果をうることができる」と述べ、それぞれの政党内での手続きが進むよう協力を求めた。

　議運の動きを受けて日本弁護士連合会は同日、渕上玲子会長の名前で次の声明を発表した。

「４項目の改正は一刻の猶予も許されないものであるから、法制審議会において年単位での検討を行うことは相当でない」

「当連合会は、えん罪被害者の速やかな救済のために、再審法改正議連が取りまとめた再審法改正案が現在開会中の第２１７回国会において速やかに審議され、再審法の改正が実現されることを求める」

（『週刊金曜日』2025年3月7日号）