東京・六本木の俳優座劇場が4月末閉館 「最終目的地は日本」
崔善愛・『週刊金曜日』編集委員|2025年4月11日1:37PM

東京・六本木の俳優座劇場が4月末、閉館する。これまでよく観劇してきた者として、一つの歴史が幕を閉じるのは残念だ。
この劇場の舞台で2005年、拙著『「自分の国」を問いつづけて』(岩波ブックレット)を基にした『最終目的地は日本』(脚本・堤春恵、制作・木山事務所)が上演された。先の本誌での特集「指紋押捺拒否」の「故郷に戻る権利」が劇作となったのだ。
舞台は、私が再入国不許可のまま留学先の米国から日本に帰国するために乗った大韓航空機内の場面から始まる。手にした航空券は成田経由ソウル行き。しかしソウルに行く気はないし、そこに家もない。最終目的地は日本だ。
この公演で音楽を担当し、稽古に何度も足を運んだ。私のくぐった体験を、役者がセリフを繰り返し自らの体に刻み込む。「体験の共有」は、他者のことばを繰り返し声に出すことで近づく。それはピアノの練習と同じだと思った。
俳優座劇場での全7回公演は満員御礼だった。が、じつは日本に先立って初演された韓国公演は波乱に満ちたものだった。
同年3月、島根県議会が2月22日を「竹島の日」とする条例を可決。すると韓国はこれに激しく反発し、日韓友好ムードが一気に冷え込んだ。文化交流のキャンセルが相次ぐようになり、私たちの公演から韓国側のスポンサーが降りてしまった。
そんななか記者会見を開くため、劇団制作者の木山潔さんとソウルに飛んだ。公演会場となるソウル中心部の光化門広場に隣接する「世宗文化会館」(小劇場)へ向かうと、劇場前では「独島」パネル展が開かれ、日本への批判で緊張に満ちていた。
記者会見では公演への質疑応答が終わると、待ちかまえていたように「在日コリアンのあなたは独島問題をどう思うか」ということばが飛んできた。私は「答えたくありません。それはまるで韓国と日本、どちらの側に立つのかを確認されているようです。日本では教科書問題や君が代問題で生活をかけて抵抗する教員らがいることも忘れないでほしい」と訴えた。
この状況に木山さんはソウル入りした劇団員に対し、幕が開いたら何が起こるかわからないと言った。すると主演の若村麻由美さんが「舞台で何が飛んできても私はそれを受けとめる覚悟です」ときっぱり。私はいまもこの言葉に力をもらっている。
(『週刊金曜日』2025年3月7日号)