国籍の壁で将来を閉ざされる外国籍教員 戦後の始まりに埋め込まれたレイシズム「当然の法理」
中村一成・ジャーナリスト|2025年4月14日6:21PM
周りの無知や無理解に
その「次の世代」の一人が京都市の中学教員、李大佑さん(1980年生まれ)である。「熱く、篤い」教員たちとの出会いを重ねた中学時代、教員を夢見た。

花園大学に進み、非常勤講師を経て2004年、韓国籍男性としては初めて京都市の教員採用試験に合格した。「差別に打ち勝った」などと称賛されたが、「そのたびにもやもやした」と言う。「二級教員」の扱いゆえである。
「李先生が校長になるころには、差別もなくなってるよ」。非常勤先で、人権教育を担当していた教師の無知には愕然とした。辞令交付式での経験も忘れられない。331人の新規採用者を代表し、李さんが登壇することになったのだが、採用担当はスピーチを「教諭、李大佑」で結ぶよう求めてきた。「嘘をついているようで……」と口にした彼を担当者は叱った。「こういう時は教諭なんや!」
「もやもや」を抱えての船出だが、小学校での多忙な日々は考える暇を与えなかった。校区内には被差別部落があり、在日朝鮮人も多い。「しんどい家庭」も少なくなかった。授業、事務作業、子どもの指導と家庭訪問……。10時過ぎに校門を出て、朝4時に起きて中学教員免許を取るために勉強した。
11年後、念願の中学社会教師になった。お調子者を意味する関西弁「いちびり」を自称し、目立つのが大好きな彼だが、「二級教員問題」の告発は控えめだった。「自分が教員として頑張り信頼を得て、外国籍教員が主任級以上になる必要性を感じてもらうようにする。ハト派の戦略でした」
転機は数年前だ。懇親の席で上司が「二級教員」の苦悩を蔑ろにする発言をした。「抗議はしたけど、心身に打撃を受けました」
翌年春に転勤した向島東中学では、所管する京都市教委が彼の人権主任任命に「待った」をかけた。「国道を挟んだ槇島中学(宇治市立なので所管は京都府教委)では主任になれる。この理不尽は教員の間でもまるで知られていない。これからの人たちのためにも、ぼくは今後、問題を正面から訴えていく。もうタカ派ですよね」
さいたま市が教諭任用
韓国民団の調査では、全国で479人の外国籍教員が働く(19年段階)。韓さんら1991年の覚書後に採用された世代は今後数年で次々と定年を迎える。
「教委が判断すれば黙認」が文科省の立場だ。大きな根拠は2000年4月施行の地方分権一括法である。片山善博総務相(当時)は11年3月、同法施行以来、国から自治体への通知は基本的に無効、場合によっては違法となると答弁した。文科省と教委は指導被指導の上下関係ではない。教諭任用は自治体の決断次第なのだ。
先立つ05年には司法からの異議申し立ても出た。都庁任用差別訴訟での最高裁判決である。原告敗訴の一方で最高裁は「当然の法理」を使わず、外国籍者の公務就任は日本の法体系の想定外と指摘した。議論の余地ない「当然の法理」ではなく、業務内容を丁寧に検証すべきだとの提言である。高辻回答の後段に焦点を当てたのだ。

19年度には、さいたま市が教諭採用に踏み切った。長らく膠着していた事態に自治体の決断で風穴が開いた。30年来、この問題に取り組んできた元プール学院大学教授の中島智子さん(1953年生まれ)は言う。「『当然の法理』に根拠がないことは当然ですが、その陰には国籍の壁で将来を閉ざされる個々人の生がある。抽象論ではないのです。国籍が教育をするとでもいうのでしょうか。国籍で人間の内実までを判断しようとする発想は、とても怖いことだと思う」
(『週刊金曜日』2025年3月28日号)