自公維3党“高校無償化”合意も有識者声明 「朝鮮の子ども排斥続けるな!」
本田雅和・編集部|2025年4月22日4:24PM
「自民、公明と日本維新の会の3党が高校授業料の無償化で合意。2025年度予算案は維新の修正を受け入れて成立の見通し」との報に、朝鮮学校が排除されたままであるとして「教育の機会均等との看板を掲げながら、朝鮮の子どもたちをいつまで差別し続けるのか」と歴史学者や教育学者、市民活動家らが2月28日に国会内で緊急の会見を開き、抗議し是正を求める声明を発表した。

田中宏・一橋大学名誉教授(アジア関係史)や和田春樹・東京大学名誉教授(ロシア史)の呼びかけに、フェミニズム社会学者の上野千鶴子氏や元文部科学事務次官の前川喜平氏、月刊誌『世界』元編集長の岡本厚氏、弁護士の内田雅敏氏らが賛同署名し、今後は政府や各政党に申し入れしていく。
「朝鮮高校排除を改めて憂う」と題した声明では、民主党政権下の2010年4月に高校無償化制度が発足したときは「後期中等教育をうける生徒に授業料を給付する」として「普通学校に限られず、専修学校、外国人学校をも対象とする画期的なもの」だったと評価。外国人学校については、①本国の高校に相当するもの②国際教育評価機関の認定するもの③その他文部科学大臣が「高校に類する課程」と指定したものに分類され、朝鮮学校は③に指定されて審査中の10年11月、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による韓国・延坪島砲撃事件が起きると、当時の菅直人首相が審査凍結を指示。同首相は11年8月の退陣を前に凍結解除を指示したが、その後審査は進まず、12年12月の安倍晋三政権で下村博文・文部科学相が「拉致問題に進展がない。朝鮮学校は朝鮮総連(在日本朝鮮人総聯合会)の影響下にある」などを理由にし、先述の③を文科省令から削除し、朝鮮高校を「不指定」に――などの政治的経緯を説明している。
この差別的措置については学校関係者から抗議や是正を求める運動が続いているだけでなく、国連・人権機関からの「(拉致問題は)生徒と関係ない」「教育を受ける権利の侵害」などとする是正勧告も出た。声明は「幼稚園から大学校まで在日朝鮮人の教育機関すべてが教育支援措置の対象外とされていること」を見直し、「対象に加えること」を求めている。
「法治国家としての恥」
記者会見では、国際紛争の現場で軍閥の武装解除の指揮経験もある平和学者の伊勢崎賢治・東京外国語大学名誉教授が「この問題に関しては新参だが……」と言いつつ「子どもに罪はない。それに尽きる」として、法的に解説した。
「国家が特定の教育機関に介入する場合、ある教育政策から朝鮮学校を排除するならば国際法・国内法に準拠するのは当然。前者は国連憲章や国際人道法、ジュネーブ条約を中心とした国際人権法。後者は教育基本法の『不当な支配に服することなく』など」と説明。
「国家の安全保障や外交方針に与える影響が朝鮮学校の教育内容に本当にあるのか? 十分な検証と証拠の積み上げが必要だ。カリキュラム全般、校則、教職員採用基準、入学基準、そして教師の評価基準、広範にわたって客観的に透明性のある評価を十分時間をかけてすべきなのは当然だが、朝鮮学校に関して行なわれた形跡はない。朝鮮学校に対する公的支援の排除は、時期的にも政治的な背景や国際情勢に基づき、特に拉致問題に関しては膝蓋腱反射的に世論形成に象徴的影響を与えてきた」
そう述べたうえで、日本社会では「朝鮮半島の緊張が朝鮮学校の子どもたちを〝日本の脅威〟と見なすような世論を形成し、時には物理的なハラスメントも生んできた。法治国家として恥ずかしい」と嘆いた。
田中氏は、記録映画『ウリハッキョ』を撮った韓国の映画監督の言葉として「在日朝鮮人の子どもにとって自分が誰であるか、この地で朝鮮人として生きていく方法を学べる唯一の場が朝鮮学校です」との証言を紹介。「そういう切り口が大事じゃないか」と述べた。全国の朝鮮学校では、経済的に通えなくなる生徒児童が増えている。
(『週刊金曜日』2025年3月7日号)