〈わかりやすい「承認」を求めないこと〉雨宮処凛
雨宮処凛・『週刊金曜日』編集委員|2025年4月22日4:47PM

あなたは「承認欲求」が強い方だろうか?「むちゃくちゃ強いです!」と即答する人は滅多にいないはずだ。ちなみに「あの人、承認欲求強いよね」と言う時、名指された人は決してよくは思われていない。
では私はどうかと言えば、若かりし頃は承認欲求の塊だった。とにかく認められたくて仕方なかった。そうでなきゃ生きてる意味なんてないし、注目を浴びている「誰か」が羨ましくて妬ましくて仕方なかった。
そこまで「承認」に飢えていたのは、中学時代のいじめなどで存在を全否定されたように感じていたからかもしれない。否定された分、その何倍も肯定されなきゃ生きていけない──そんな呪いにかかっていたようにも思うのだ。それはやっかいなものだったけど、振り返れば、それほどに「原動力」となるものもなかった気がする。
そんなことを書いたのは、村山由佳さんの小説『PRIZE─プライズ─』(文藝春秋)を読んだからだ。
主人公は作家・天羽カイン。本を出せばベストセラー、映像化作品多数、本屋大賞にも輝く押しも押されもせぬ人気作家だ。しかし、そんな彼女は「どうしても、直木賞が欲しい」という思いに取り憑かれている。
「何としてでも認めさせてやる」という主人公の業の深さに圧倒されながら一気読みしたのだが、思い出したのは私の師匠的存在である故・見沢知廉氏だ。1980年代、左翼から右翼に転向して「スパイ粛清事件」を起こして獄中12年、出所とほぼ同時にデビュー。96年に出版された獄中手記『囚人狂時代』はベストセラーとなり、97年に発表した『調律の帝国』は三島由紀夫賞候補になるなど目覚ましい活躍をしていた。
そんな見沢氏は自らの「殺人犯」という汚名をそそぐためか文学賞に異常なほどのこだわりを見せ、文学と命懸けで格闘するようになっていった。その結果、心身を病み、2005年、マンションから飛び降りて絶命。享年46。「命懸けで書いたら死ぬ」という現実を突きつけられた私は、狂おしいほど何かを渇望することの怖さを思い知った。
あれから、20年。私が淡々と物書きを続けていられるのは、その経験があるからだと、『PRIZE』を読んで、思った。何かにこだわりすぎず、決して命を賭けないこと。わかりやすい「承認」を求めないこと。
私は死者に生かされている。折に触れて、そう思う。
(『週刊金曜日』2025年3月14日号)