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東電責任者“無罪”放免の中、武藤類子さんにドイツ環境賞 「絶望の夜にも出来ることを」

本田雅和・編集部|2025年4月23日8:06PM

 東京電力福島第一原発事故で最高裁が東電責任者を〝無罪〟放免した一方で、故郷フクシマを放射能で汚染され、破壊されたことへの静かな怒りを世界に向けて発信し、その責任を問い続けている武藤類子さん(71歳)に、ドイツの国際環境保護団体が彼女の長年の功績を讃える賞を贈った。

長年の反原発運動でドイツの「バイエルン環境賞」を受賞した武藤類子さん。(撮影/本田雅和)

 日本時間の3月9日夜、今年の「バイエルン環境賞」の受賞式が、ドイツ・バイエルン市と武藤さんの故郷・福島県三春町の公民館を結ぶ二元中継で開催された。国際環境保護団体「BUND Naturschutz in Bayern e.V.」(バイエルン自然保護連盟=FoE《旧・地球の友》ドイツバイエルン州本部)が主催する賞だ。生物多様性の保全や気候変動対策、持続可能なライフスタイルの推進などに尽力した人々や団体を毎年顕彰してきた。今年で16回目。

 この夜の受賞式で武藤さんは、「事故から14年後の福島の現状」を日独の聴衆に改めて報告。事故は「収束」どころか今も「空に海に放射性物質が漏れ出ている状態」で、「原子力緊急事態宣言」はいまだ解除できず。7市町村に帰還困難区域が残り、避難指示が解除された地域も事故前の公衆の被曝限度年間1ミリシーベルトから20ミリシーベルトに基準を変えて、住民帰還政策が進められていること――などを説明した。 

 事故翌年の2012年、福島原発告訴団の団長として国や東電の刑事責任を問う告訴運動を呼びかけた。その成果の一つである、東電旧経営陣が強制起訴され、初めて刑事責任を問われた裁判は、4日前に最高裁が上告を棄却し、被告の〝無罪〟が確定したばかり。

「かつてない甚大な被害を引き起こし、多くの人間を被曝させ、人生を狂わせた責任を、最も罪の大きい経営陣に負わせない決定を、最高裁がした」。その最高裁と電力会社の人事癒着も指摘し、「司法の危機」にも警鐘を鳴らした。

「日本政府は被害を小さく見せかけ、被害者を切り捨て、汚染水〝放出〟や汚染土〝活用〟の名の下に放射性物質の拡散政策を取り続けている」としたうえで、「戦争による核災害も現実味を帯び、どうしたら良いかと途方に暮れる夜もある。現実から目をそらさず、核の恐怖のない安全で豊かな地球環境を取り戻すため出来ることを一つずつやっていく」と誓った。

非暴力直接行動に感銘

 武藤さんの原点は1986年4月、旧ソ連でのチェルノブイリ原発事故にある。地元の福島県内で多数の原発が稼働することに疑問と不安を感じていた武藤さんは当時、教師として勤めていた養護学校の職員会議で「原発事故を想定した防災訓練」を提案したところ同僚や管理職から冷笑された。一時は絶望したものの、その後は故郷近くの田村市の山里で暮らしながら、2003年から山小屋喫茶「燦」を開業。太陽光発電も活用しながら「コンセントの向こう側=この電力はどこから来るか? に思いを馳せる反原発運動」(同日のドイツ側の武藤さんへの応援スピーチ)に取り組んできた。

 そんな武藤さんが、実は「環境先進国・ドイツ」から二つの点で大きな影響を受けていた。一つは1990年代に見たバッカースドルフ再処理工場建設反対運動の記録映画。「警察のガス弾を浴びながらも非暴力直接行動を続ける住民たちを、心底凄いと思った」という。

 もう一つは2023年4月のG7札幌環境大臣会合に参加したドイツのレムケ環境相との面会。福島の被災地を訪れ、武藤さんら原発被害者4人から、汚染水の海洋投棄について話を聞き、海洋投棄に対して「歓迎できない」と表明してくれた。大臣が市民の話を真摯に聴き、すぐに環境政策に反映する姿に感激した。もちろん同時期のドイツ国内原発の全基廃止決定にも、足元で福島事故を抱えて体験しているのに脱原発も決められない政治家との間の、彼我の差を実感した。

「脱原発、人権を守る運動が負け続け、意気消沈の時も武藤さんは確固として前を向き穏やかな言葉で私たちを奮起させてくれる」。FoE Japanの満田夏花事務局長の言葉だ。

(『週刊金曜日』2025年3月14日号)

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