新潟県で東電の福島原発事故検証がスタート――地震か津波か、原因に切り込む
2013年11月25日7:06PM
東京電力・福島第一原発の事故原因は地震か津波か――。
事故当初から議論され、いまだ結論が出ていないこの問題に、「新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」(新潟県技術委員会)が切り込む。一〇月末から始まっている事故検証課題別ディスカッションでは「シビアアクシデント(過酷事故)対策」「地震動による重要機器の影響」など六つの課題を順次検証するが、ここでの議論が全国の原発再稼働に大きな影響を及ぼすのは確実だ。
東京電力の廣瀬直己社長と県庁で面談をした翌日(九月二六日)、泉田裕彦・新潟県知事は東電の「柏崎刈羽原子力発電所」(新潟県)の規制基準適合審査申請を条件付きで承認。マスコミは、まるで再稼働が規定路線となったかのように報じたが、実態は全く違う。
東電社長面談後で初めての県知事会見(メディア懇談会)が開かれた一〇月六日、泉田知事は「(今回の承認は)条件付きの仮承認」にすぎず、「再稼働申請の了承ではない」と強調。「『(県民の)健康に影響がある被曝をしうる』ということになれば、『仮了承』は無効、フィルターベントは使用できなくなる」と説明した。
原発の新規制基準では、沸騰水型炉(BWR)は、原子炉容器の圧力を下げる「フィルター付きベント」の設置が義務づけられている。東電が一〇月二二日、この設備の本格工事に入ったのはこのためだが、新潟県技術委員会での議論の結果、「ベント使用不可」(=再稼働不可)という結論になることもあるのだ。
泉田知事は「福島原発事故の検証が先」という立場を貫いてもいる。原発事故が津波ではなく、地震で配管など重要機器が損傷したことが原因とする「地震説」について聞くと、こう答えた。
「国民の多くの方が(福島第一原発で)一体、何があったのかを知りたがっている。そのポイントの一つなのだろうと思います。今度、ディスカッションという形で専門家の委員の方々に深堀をしていただいて事故原因に迫ってほしい」
新潟県技術委員会の委員の一人は、国会事故調の委員を務めた元原発技術者の田中三彦氏である。検証課題別ディスカッションでは「地震動による重要機器の影響」を担当、この議論には東電も参加する予定だ。ちなみに、田中氏はいち早く「地震原因(損傷)説」を提唱し、地震による重要機器の損傷はなかったとする「津波原因説」を主張してきた東電と対峙。今回も「地震原因説 対 津波原因説」の激論となるのは間違いない。
ちなみに廣瀬社長は泉田知事との面談で、地上に配管がある「第一ベント」に加えて、地中に配管がある「第二ベント」の設置を新たに提案した。これが評価されて、翌日の承認となったが、それでも津波原因説の東電は、地上に配管がある「第一ベント」が完成すれば、「柏崎刈羽原発の再稼働可能」という考えを取っている(九月二六日の原子力規制委員会への申請後の記者会見での回答)。
しかし、地上の配管が地震損傷する可能性が無視できなければ、第一ベントだけでは不十分で、地中に配管があることから地震に強いとされる「第二ベント」完成までは再稼働が不可能になる。工事に入った第一ベントと違い、第二ベントは設計に入ったばかりで完成時期は数年遅れる。「来年の再稼働」を前提に、金融機関からの融資も受けている東電の経営計画が崩れてしまうことになるのだ。
〇七年の新潟県中越沖地震の際に発生した火災は地震による配管損傷が原因。だからこそ、泉田知事は「第二ベントの設置」(配管地中化による耐震性強化)を東電に求め、「原発事故原因の検証が先」との立場を崩さず、課題別ディスカッションで事故原因についても議論する場を設けた。
この議論が今後、注目を集めるのは確実で、再稼働に突き進もうとする安倍政権の障壁になる可能性もある。地震原因説に軍配が上がれば、耐震性強化が必要となることから、県内の柏崎刈羽原発はもちろん、全国の原発再稼働に影響を及ぼすことになるためだ。
(横田一・ジャーナリスト、11月15日号)