面会記(1)
2008年10月3日5:00PM|カテゴリー:シジフォスの希望|Kataoka
シジフォスの希望(12)
大阪はどんよりと曇り、今にも雨が落ちてきそうな暗灰色の空が広がっていた。
前夜に東梅田駅近くのビジネスホテルに泊まり、朝食を摂るためにロビーに降りていくと、今回の面会に労をとってくれたKさんがすでに朝刊を広げて珈琲を飲んでいた。
「麻生政権、福田政権発足時の支持率下回る」
9月24日に発足した麻生太郎内閣について、新聞各紙が調査したようだ。 「麻生首相はどうですかね」と、Kさん。
「時間の問題、選挙管理内閣だろうね」。私が言う。
東梅田駅から大阪市営谷町線に乗って都島へ。向かう場所の住所は大阪市都島区友渕町1-2-5。
「大阪の地下鉄は高いんですよ。東京なら160円で行けるところが200円」
Kさんの言うとおり、わずか一駅、二駅でも200円だ。
「大阪の人はよく文句を言わないですね」と私。
都島駅で降りると、空はいよいよ暗く重い。タクシーに乗る前、Kさんが再び、東京との比較。
「大阪のタクシーは、ワンメーターの場合は東京より安いんですが、距離を走ると料金の上がり方が早いですよ」
タクシーの中でラジオが「激しい雨が降る地域もある」というようなアナウンスをしていた。
やがて、言うとおり、ワンメーター590円で到着。小雨もぱらついてきた。
旧淀川(大川)沿いにある大阪拘置所、通称「大拘(だいこう)」の正面入り口だ。日本国内にある7大拘置所の一つで、東京に次ぐ規模を持つ。
午前9時すぎ。拘置所の入り口で受付番号の入ったプラスチックの札を渡される。「47番」。そこで携帯電話をボックスに置き、金属探知機のゲートをくぐると「ピー」という音。鞄にカメラがあったことを思い出し、それもボックスに入れて再びゲートをくぐると、また「ピー」。
「よく鳴るんですよ」
まあ、どうぞという調子で守衛の男性が道を開けてくれる。
拘置所敷地内に入ると、30~40メートルほど左手に「面会所待合室」の入り口が見える。
待合室の出口付近で、ダブルのスーツを着た、見るからに「その筋」のいかつい風貌の男たちが五、六人、一斉に立ち上がり、やはり見るからに「姉さん」風の中年の女性に頭を下げていた。組長か幹部クラスへの面会が終わったのか、その女性は、入ってきた私とすれ違う形で待合室を出ていった。
面会受付所に入ると、10×20メートルほどの空間に、申込書を書くための筆記スペースが3カ所。長椅子や飲料水の自動販売機などが並び、小さな町村役場のフロアーに似ているが、異なるのは、面会受付窓口がおそろしく狭い上下スライドの磨りガラスになっていて、その内側がまったく見えないように遮蔽されていることだ。
私たちは筆記机で「面会申込書」を取り出す。
「被収容者氏名」「あなたの氏名、関係、職業、年齢」「あなたの住所」「面会の要旨(目的)」などの欄。
私は収容者欄に、「林 眞須美」と書き込んだ。
私が会いに来たのは、ちょうど10年前、1998年7月25日に起きた和歌山カレー事件の被告(一審、二審で死刑判決を受けて最高裁に上告中)として、ここに収容されている林眞須美被告人(47歳)である。(片岡 伸行 )
(つづく)