週刊金曜日 編集後記

978号

▼特集内の記者座談会は出席者を集めるのに苦労した。日程が厳しかったこともあるが、各紙の知人に相談すると「政治部で批判精神のある記者がいない」「官邸にいるのはいま安倍政権を批判してもなあ、という姿勢の記者ばかり」という返事が返ってくるからだ。
 10年ほど前に全国紙や地方紙、通信社の記者たちと時折、飲み会で話をしたが、誰もが反権力姿勢をもっていた。その頃の気骨ある政治記者たちは担当が変わったり、管理職になって現場を離れていたりするので頼めない。諦めかけた時にぎりぎりで批判精神ある記者が見つかり、なんとか実現できたものの、若手政治記者たちの現状には失望させられた。政権への舌鋒鋭い批判が紙面でなかなか見られないのもむべなるかな。
 座談会では「日本のメディアの特殊性を最も反映している」(by記者)NHKと読売新聞社の話も盛り上がったが、紙幅の都合上割愛。残念だが、内輪話は次週、NHK特集の出身者座談会をお読みください。お楽しみに。(宮本有紀)

▼「京都にきつね丼があってよかった」
 昨年末、京都で途中下車して街場のうどん屋「山乃屋」に寄った。年末の合併号「食を哲学する」の編集部原稿にチラッと引用したからだ。本に載っている店に行くのはヤボなのだが、紹介した著者のコメントがあまりにも粋なので、店の空気に直に触れてみたくなったのだ。冒頭のコピーは、その店の外壁に貼られてあった紙に書かれてあったものだ。おかげでうどんだけでなく、きつね丼も注文となる。街場のコピーは侮れない。
 1月末、東京のJR中央線東小金井駅に直結のショッピングエリアが誕生した。商売不毛の地として「中央線の平壌」とも呼ばれていた東小金井に、石畳の小道や水のテラスを配置し、「パリのたたずまい」を武蔵野に運ぶのだとか。本気なのか。なんかイタいぞ。
「小金井にはなにもない。空しかない。なにもないというシアワセがあってよかった」なんて思う、日曜日の午後。(本田政昭)

▼今号から白井聡さん(36歳)の新連載〈「戦後」の墓碑銘〉がはじまります。基本的に毎月第1週の掲載予定です。白井さんの専門は社会思想・政治学で、著書の『永続敗戦論――戦後日本の核心』(太田出版)が昨年、第4回「いける本大賞」に選ばれました。
 ポスト・モダン思想の流行によって、理性による啓蒙を基盤とした近代の制度・実践・思考が批判され、小さな差異にこだわる思想状況が生まれています。そういった人たちと一線を画し、白井さんは「大きな物語」や世界観を持っている方で連載をお願いするためにじっくりお会いしたのは昨年の夏。闇市の風情を色濃く残す新宿西口の「思い出横町」の焼鳥屋で、さまざまなことを話し、現状に対するヒリヒリとした危機意識が印象に残りました。
 1月10日、17日号の中島岳志編集委員との対談にもあるとおり、白井さんにはレーニンについての著作が2冊あります。こちらもお薦めです。(伊田浩之)

▼「キミじゃなきゃ、ダメなんだ。」そう言われることが人生で何回あるだろう。
 電車の中で目にしたポスター。写っているのは20代くらいに見える男性。就活や転職の応援ポスターなのかなと一瞬思ったのだが、よく見ると骨髄バンクのドナー登録の呼びかけだった。確かに。適合の確率は低いらしいから、まさに「キミじゃなきゃ、ダメ」なんだろうなと思いつつ、「人生で何回あるだろう」ってところにどうしても居心地の悪さを感じてしまう。
 「キミじゃなきゃ」って言われることは、そんなに珍しいことになってしまっているんだろうか? 基本、「取り換え可能な誰か」であるってことなんだろうな。コピーを読んでドキッとした私自身が実はそう思っているのかもしれない。本当は全てにおいて、その人じゃなきゃダメなはずなのに。
 「キミじゃなきゃダメなんだ。」自分の周りの人の顔を思い浮かべる。そう! あなたじゃなきゃダメなんです。(志水邦江)