週刊金曜日 編集後記

993号

▼九州全体が壊滅する巨大噴火の危険性があるなら、原発よりも、住民の避難策などを問題提起すべきではないか――特集の打ち合わせ中に同僚から素朴な疑問が出ました。その考え方も重要です。ただ、噴火の兆候が仮に10日前に観測されるとして、避難計画は作れるかもしれませんが、原子炉内の核燃料やプール内の使用済み燃料を安全に移動させることなどできません。原発が壊滅すれば広い国土が数万年単位で汚染されることになります。だからこそ、原子力規制委員会の審査手法に危機感を抱いた火山学者たちが、控えめながら声を上げ始めたのでしょう。
 大飯原発の運転差し止め判決が出た翌日、原告団長の中嶌哲演さんに判決報道の評価を聞きました。中嶌さんはまだ2紙しか読んでいないと前置きしながら「情報が消費される時代になった。いつの時代も玉石混淆ではあるが、玉の情報すらすぐに消費され、過去のものにされてしまう」と話しました。ジャーナリズムにとって重要な指摘です。歴史的な福井地裁判決を風化させないよう努力を続けたいと思います。(伊田浩之)

▼昨年、スタディツアーで訪れたインド・アラハバードから、宣教師で農業指導者の三浦照男さんが一時帰国された。前任者から大学の任などを引き継いで11年。61歳の三浦さんは、この数年は集大成として「農村の中に社会的資本が蓄積されるように」と人づくりに力を入れている。農村リーダー、有機農業組合、母子保健指導者、子どもの学校などである。
 カースト制があるインドでは、自分たちの技術を外に漏らさずに守る傾向がある。たとえば有機農業を学んだとしても、その技術を独り占めする傾向があるというのだ。また、ほかの人に技術を教えてしまったら、自分の仕事を奪われてクビになるのではないか、などと不安になるという。
 そういう日本とは前提が違うなかで、三浦さんは「育てた人が次の人を育てる」指導を根気強く続けてきた。そのために必要なことは、互いの信頼関係と技術などの分かち合いをほめることだという。いやいや、日本でも参考になることは多い。くわしくは、アーシャ=アジアの農民と歩む会までURL http://ashaasia.org/(吉田亮子)

▼与党協議会が始まる前「公明党に激励のメールを送りませんか」というメールが飛び込んできた。いま、安倍首相の行動に「待った」をかけられるのは連立を組んでいる公明党だけ。切羽詰まったうえでの声掛けだった。
 実はそのメールをもらう前に、私はすっかり公明党の山口那津男代表のファンになっていた。単純かもしれないが、ある日のテレビ番組での集団的自衛権行使の実現を焦る安倍政権に対して、臆せずにそれを否定し、筋を通す語り口が小気味よかったのだ。当然、政権の中での立場は厳しいものがあるはず。なのに私はまだメールを実行していない。私のように密かに激励したい人はたくさんいるはず。「憲法無視」に突進する安倍首相の行為を未然に防ぐことは不可能なのだろうか。
 今月初め、タイの憲法裁判所が、憲法を無視する前首相の失職を宣告したニュースには驚かされたものである。とても比較などできる話ではないのだが、いまは、公明党に期待を託すしかない事態がとても悔しい。(柳百合子)

▼「逮捕された歌手のニュースより、もっと報道すべきことがあるんじゃないかなあ、なぜ前から言われてたのに今なんだろう」
 と何気なく言ったら驚かれた。世代的に、ショックを受けてないのか、と。特にファンじゃなくても。ドラマの主題歌だったし懐かしくないのか、と言われたら確かに大ヒットしていた頃CD屋でバイトしていたのでいやというほど聞かされた、というのはある。CD屋で働いていると、好きでもない流行りの音楽ばかり聞かされてなかなかつらかった。そういえば尾崎豊が亡くなった日も私はバイトしてたわ
 追加注文が大変だった、と思い出したり。悲しむ暇もなかったような。当時新人の女性シンガーソングライターの試聴盤に出合えたことはよかった。今でもそのアルバムにはお世話になっているし。などアルバイトのことは思い出した。それだけ。
 たとえば二○代以下のひとたちには誰このおじさん、って感じだと思うし、重要視して報道してほしいとは思うのは実はわりと少数、ですよね。(佐藤恵)