週刊金曜日 編集後記

995号

▼「国民の生命と安全を守るのは政府として当然のこと」。集団的自衛権行使容認の憲法解釈をめぐり安倍晋三首相はそう口にする。「邦人を運ぶ米艦の防護」?ばかばかしい。どうやって国民を欺き(超例外的な事例を出して)戦争参加への道を開こうかと考えているのだろうが、憲法解釈を変えずに「国民の生命と安全を守る」ためにやるべきことは山ほどある。
 福島原発事故で「国民の生命と安全」を守れなかったのに、原発を再稼働させようとしているのは誰か。4割近くが非正規労働の差別下にあり、自殺者は年間約3万人、過労死・過労自殺(未遂含む)は年間数万人とされるのに「残業代ゼロ制度」を導入しようとするのは誰か。児童虐待の相談対応件数は7万件近く、6人に1人の子どもが貧困状態にある。挙げればきりがないが、米国の戦争に参加すればさらに多くの危険が国内外に増える。結局、この男を首相におくのが最も「国民の生命と安全」を脅かすのだろう。(片岡伸行)

▼弊社では超マイノリティであるアイドル好き。土井と私が二大巨頭(?)ですが、先週号のヲタの方々の熱さには遠く及びません。
 業界全体で見たら、まだまだAKB48が人気〓1でしょう(すみません、総選挙でまた泣きました)。しかし、先週号で登場してもらったBiSは、今一番勢いのあるアイドルと言えると思います(メンバーと写真を撮った編集長の平井がうらやましいっ!!)。
 先週号で「アイドルが近ければ近いほど、エンタテインメントっていうものの本質がぶれてくる危険性がある」と語ったファーストサマーウイカさん。当事者であるからこその鋭い言葉です。
 ときにアイドルは、モーニング娘。のように「自衛官募集」のポスターで使われてしまうことも。年始には『産経新聞』で安倍晋三首相と秋元康さんが対談していましたが、権力の都合のいいように利用されたくない。アイドルが多くの人を幸せにできるよう、行く末を見守っていきます。(赤岩友香)

▼インド出身の作家アルンダティ・ロイのエッセイに『誇りと抵抗――権力政治を葬る道のり』(加藤洋子訳、集英社新書)がある。
 表紙の説明に、筆者は「グローバリゼーションや米国の圧力、強圧的なインド政府によって生きていくことが脅かされてきた人びとの力になるために、(中略)積極的に発言しつづける」とある。
 ロイは言う。“中立”と思われている人びと、つまり民主主義の柱石とされる裁判官や政治家、学者らが彼女の批判に反応し、悪口雑言や衝動的な怒りを浴びせようとも、「だれがどちらを支持しているのか」を明白にできるなら、彼らを「怒らせる価値はある」と。
 ただし、そうして他者の立場を明白にしようと試みるとき、同時に問われるのは、自分はどう生きたいのか、どのような立場に身をおくのか、ということでもある。 
 誰かや何かを批判するときは、自身の立ち位置とその目的を、忘れずに意識したい。(内原英聡)

▼手書き文字への思い入れが強く、いただいた手紙や葉書を処分するのが苦手だ。受信メールはその都度消去するのに、幼少期の年賀状から最近に至るもの一切が、押し入れで眠っていた。雨の止まないこの土日、部屋の整理を決意。埃にまみれた紙の束を取り出した。
 担任教諭からの暑中見舞、転校していった初恋相手からの近況報告、夭折した親友の旅先からの絵はがき等々、文字の電子化など想定しない、それぞれの時代の喜びや恋愛感情、はたまた絶望と悲しみの引き出しが一気に開いて、熱いものが込み上げる。しかし、そこに懐かしさはない。自分が生きていることを実感せず、いずれこの世を去ることに思いを馳せることもなく、多くの時間を費やしたことを痛感。結果、人生と大いに向き合う休日となってしまった。
 細かく裁断した思い出の紙切れは翌朝、生ゴミとともに運ばれた。そしてこの夏、旧友に暑中見舞いを出すことにした。(町田明穂)