週刊金曜日 編集後記

996号

▼あまり報道されないが、日本チームと闘ったコートジボワールのFW、ディディエ・ドログバ選手は、同国が内戦の最中、生中継のカメラで内戦停止を訴え、結果的に、「内戦を止めさせた男」として知られている。単にサッカーだけの「英雄」というわけではない。
 一方、日本では、W杯開幕とともに、メディアにおける集団的自衛権をめぐる報道は明らかに減っている。私たちを戦争に引きずり込むかもしれない問題なのに、だ。
「新聞記者は戦争を始めることができる。意図を持てば世の中を危険な方向に導けるのだから。」(『オシムの言葉』木村元彦著、集英社刊より)――旧ユーゴスラビア内戦の最中に同国監督を務め、今回のW杯でも民族対立の傷痕が残るボスニア・ヘルツェゴビナを初出場に導いた(19ページ)イビツァ・オシム元日本代表監督の言葉が、いっそう強く、重く胸に響く。W杯の楽しみ方はそれぞれに違って当たり前だが、その裏で何が起こっているのかにも注意深くありたい。(山村清二)

▼高校無償化から東京朝鮮高校(北区)が除外されていることを問う裁判を多摩地域でも支援してもらおうと6月14日、西東京朝鮮第二幼初級学校(町田市)で集会があった(主催は立川町田朝鮮学校支援ネットワーク・ウリの会)。同様の裁判はすでに大阪、愛知、広島、福岡での4つがあり、東京は生徒62人が原告となっている。
 会場となった朝鮮学校は昨年、市教委が防犯ブザーを貸与しないなどとした学校。今年度は市内在住の生徒にのみ申請すると貸与される方式となった。集会で伊藤朝日太郎弁護士は訴状を解説、「在特会を許している世論をひっくり返したい」と話した。第2回口頭弁論は7月2日10時から東京地裁第415法廷で、19時から文京区民センターで報告会が行なわれる。
 と、そんな集会などの情報欄がぶんか案内板と合体→「きんようびのはらっぱで」にリニューアル! 人や動物、植物など雑多なものが集い、憩う「はらっぱ」のような「場」をつくるお手伝いができたらと思う。(吉田亮子)

▼「こちら、真っ赤です!」
 北岡裕さんからの不可解な情報を元に向かった世界卓球・東京大会会場の代々木体育館。1時間半遅れで到着した会場でまず目に飛び込んできたのは、情報通りの“真っ赤”な光景だった。思わず、試合中のコートを見るよりも先に、真っ赤な応援席を見るためにスロープから身を乗り出した。
 遠目からでもその気迫と応援の声が響いてくる。5月1日、北朝鮮と韓国の南北対決が代々木体育館では繰り広げられていた。真っ赤の正体は北朝鮮応援団。赤に吸い寄せられるかのように、北朝鮮応援団を見にくる日本チームの応援者たちや記者の姿もあった。
 翌日、試合をテレビで見ていたという知人にこの熱気を語ったが、「そんな応援の声は聞こえなかった。映っていたのは日本の試合だけ」と一蹴された。1日の同時刻、日本男子はハンガリーに勝ち、会場は歓喜した。そしてこのわずか2、3メートル横で、熱気に包まれたもう一つの試合があったことも伝えておきたい。(渡部睦美)

▼歳のせいなのか、日頃の不摂生が祟ったのか久しぶりに体調を崩した。当初は風邪だと思いこんでいたが、悪化の一途。何か深刻な病気に違いないという同僚の言葉に怖気づき、不本意にも千代田区の某病院の門を叩いてしまった。
 待ち時間は2時間、診察はものの3分。「まずこれらの薬を飲んでみて効かなかったらまた次のお薬を考えましょう」
 患者と目も合わさない初老の医師の言葉に耳を疑った。俺は臨床実験の対象者か? 薬の処方ありきの診察。出された薬は、抗生物質も含め5種類。そのうち『新版のんではいけない薬』(小社刊)で断罪している物が4種類も! しかし悲しいかな、身も心も弱っていると判断力が鈍り、藁にも縋る思いで薬を飲みこんでしまう。その危険性や副作用も顧みず、こうやって患者は薬地獄に落ちる。
 会社に戻ると、奇しくも『新版のんではいけない薬』の重版情報が流れ、我に返り猛省をした。やはり、自分の身を守るのは薬でなく、正確な知識だ。(尹史承)