週刊金曜日 編集後記

1005号

▼美味いものを腹一杯食べたい。状況が許してくれるのなら胃袋が納得してくれるまで――。その点で志を同じくする自民党系議員が沖縄にいる。会うたびに飲み屋でラフテー、島らっきょうを食いながら情報交換し、沖縄そばでしめる。その人が先日こう言った。
「おれはゴーヤーチャンプルーもソーミンチャンプルーも好きだけど、社大、社民、共産まで入ったチャンプルーは食えないね」
 那覇市長、翁長雄志氏のこと。かつては自民党県連幹事長として保守政界をリードしてきたが、つぎの知事選では辺野古の基地建設に異議をとなえ、沖縄社会大衆党や社民党、共産党まで推している。
 中国、日本、米国など各国の文化を吸収してきたチャンプルー(まぜこぜ)の沖縄文化に、ことし新たな一品が加わったということか。美味いのか、腹一杯に食えるシロモノか……翁長氏は今月上旬、革新系議員らに語っている。
「みんなが腹八分、腹六分でまとまっていくという気持ちにならなければならない」
 沖縄の状況が生んだ、空腹の作法とでもいうべきか。(野中大樹)

▼8月9日、米国ミズーリ州ファーガソンで起こった、丸腰のアフリカ系少年の白人警官による射殺事件。抗議するアフリカ系住民が路上に溢れ、警察の余りの暴力に「戦場」を想起させた。警官の氏名がすぐに公表されず、アノニマスがハッキングによって得た名前を公表し(誤りだったが)、結局翌日、郡警察が当事者を発表する等、公平とはほど遠い状況。前月、全米で警官に射殺された丸腰のアフリカ系男性は4人。こうした事件は日常茶飯事である。
 マット・タイビは、『ディヴァイド(分断) 経済格差の時代におけるアメリカの不公正』で、現在の米国を表す三つの統計を挙げる。貧困率の増大、暴力的な犯罪の減少、しかし刑務所収容者は倍増。奴隷解放以前の奴隷より多いアフリカ系の人々が刑務所にいる。
 世界の富の40%を喪失させても、白人の金融会社重役は刑務所へ行かず、アフリカ系の人々は微罪で刑務所へ送られる。米国の社会は、貧しい者・弱者を徹底して憎悪する。人種や収入等によって変動する、権利のスライド制だとタイビは言う。(樋口惠)

▼9月上旬に発売される単行本『新・買ってはいけない10』の表紙はネコです(今号裏表紙参照)。この本を編集した渡辺妙子が犬好きということもあり、当初は犬猫ダブルキャストで制作していたのですが、最終的にネコでドーンといくことにしました。表紙から外れたわんちゃんも帯ウラの「添加物事典」の告知でけなげにいい仕事をしてます。書店で見かけたらぜひ手に取って見てください。なんで彼らが表紙を飾るのかというと、ペットの健康を害する「ペットフード」や「ペット用ノミ取り」グッズの記事があるからなのでした。全国のペット好きの方にこの記事が届きますように。
 先日の広島の土石流被害のあまりの凄まじさに言葉を失いました。近年、「観測史上最大」というような集中豪雨が日本列島で頻発しています。どう見ても「居住に適さない場所」が無理な宅地開発によって造成されている例が全国各地にあります。自治体の怠慢だけでなく、地価下落や風評被害等の問題で簡単に対応できないことも多々あるようです。(本田政昭)

▼粗筋しか知らなかった『南総里見八犬伝』を読んでいる。悪女とされる玉梓だが、金碗八郎に抗弁する場面は、女の自己決定権がないこと、本妻でなかったこと、自分より要職にあった男の方が責任もあったことなど、非常に説得的で驚かされる。一方で道理を説いているはずの金碗八郎の循環論法的詭弁は見苦しく、罪状に抗弁する玉梓を「そは過言なり舌長し。(中略)さる逞しき女子ならずは、いかでか城を傾くべき」と抗弁自体を断罪するに至っては論理もなにもない。「道理」に責められたことにはなっているが玉梓ならずとも論理が通じない相手には泣き落とししかなかろう。200年前の書物に現代的価値観を当てはめても仕方がないが、この場面に妙な既視感を覚えた。「サークルクラッシャー(サークラ)」とか「オタサーの姫」を主題としたネット小話に似ているのだ。「男の集団に女がやってきて周囲を振り回して自滅する」という話を嘲笑しながら消費する陰湿な構造が、古典の時代から現代に至るまで脈々と受け継がれている。(原田成人)