週刊金曜日 編集後記

1008号

▼〈変わらない ここで待ってても/行かなくちゃ 一人ぼっちでも/何処かで 僕を呼ぶ声/届くかなぁ 明日天気になれ〉。元気がでない朝にかける曲がある。ハナレグミの「明日天気になれ」もその一つ。原子力規制委員会が九州電力川内原発の新規制基準「適合」を認めると予想された9月10日の朝にもこの曲を聴いた。
 本誌5月30日号で特集した巨大噴火に対する対策は放置されたままだ。いや対策がとれないのが実情だろう。だから、火山噴火予知連絡会の会長、藤井敏嗣東京大学名誉教授は「火山リスクが低いとの規制委の判断は科学的根拠に基づいていない」と批判している(『東京新聞』9月11日朝刊)。
 不愉快な現実を動かすためにはできる行動を積み重ねるしかない。9月23日のさようなら原発全国大集会は、「デング熱の怪しげな流行」のため、東京・代々木公園から台東区の亀戸中央公園に会場が変更となったが、万難を排して参加、取材するつもり。『週刊金曜日』の販売ブースも出ます。ハナレグミを鼻歌で歌っている人がいたら私かもね。(伊田浩之)

▼米国の雑誌『フォーチュン』が毎年発表している全米企業の売上高ランキング「フォーチュン500」。ウォルマートが1位となった2002年は、同社が西友と資本提携しました。その後、西友は子会社化され、今や、西友のサイトには「ウォルマートのグローバル調達網を活用した直輸入商品の販売強化を図るキャンペーンを実施中!」と。かつての西武グループとしての栄華はいずこへ……。
 この度、弊社から『ウォルマートはなぜ、世界最強企業になれたのか』(ネルソン・リクテンスタイン=著、佐々木洋=訳)を刊行しました。本書の原題は『THE RETAIL REVOLUTION』で、米国では大きな話題を呼びました。リクテンスタインさんはゼネラルモーターズ社のストライキにかかわったこともある方。その気骨ある姿勢で、ウォルマート社による従業員の搾取、労働組合つぶし、政治家との癒着などを緻密に取材しています。同社の“ヨイショ”本ばかりが溢れる中、暗部をも描いた本書。聞こえがいいばかりの「グローバリズム」に一石を投じられれば幸いです。(赤岩友香)

▼「善なる人」の心根に宿る腐ったファシズムを垣間見た。池上彰のことだ。9月4日の『朝日新聞』に掲載された池上の「慰安婦報道検証 訂正、遅きに失したのでは」と題する記事は大半が「記者のイロハ」なるものの解説に割かれた。
 第14段落には〈「慰安婦」と呼ばれた女性たちがいたことは事実です。これを今後も報道することは大事なことです〉との文章が挿入されたが、池上は、なぜ、その主張に全文を費やさないのか。〈大事なこと〉と言うのなら、もっと書くべきことがあるのではないか。
『八重山の戦争』(南山舎)の著者である大田静男は、戦時中、沖縄の石垣島に設置されていた慰安所の跡を辿り、こう思いを綴った。
〈闇の地獄を這い出た彼女たちはどのような思いで青空をみつめたのだろう……汚辱にまみれた彼女たちが水浴びしたという古井戸が今も残る。悲しみと嘆きを見聞きした福木の間からは黒真珠を育む海がキラめいている……残酷なほど美しい光景。そして無残そのものの彼女たちの人生。やりばのない思いにかられる〉。(内原英聡)

▼原爆、敗戦、関東大震災と記念日が続き、生き残った人たちの体験談がこの夏も新聞、テレビ、雑誌などで多く語られた。一緒に伝えられる識者の話とは比較にならないほどの説得力があり、この方たちがお元気なうちに、もっと話を聞かせてほしいと願った。
『東京新聞』が発掘した、『きけ わだつみのこえ』所収の木村久夫・元陸軍上等兵のもう一通の遺書を載せた本も読んだ。そこには〈日本の軍人、ことに陸軍の軍人は、私たちの予測していた通り、やはり国を亡ぼしたやつであり、すべての虚飾を取り去れば、我欲そのもののほかは何ものでもなかった〉などの言葉が遺されている。
 そうした証言報道の中で後味が悪かったのが、『朝日新聞』の「慰安婦」についての誤報訂正だ。間違ったのは仕方がないとしても、訂正のやり方が誠意に欠ける。それ以上に問題なのが、『朝日』のミスを叩いて「慰安婦」問題までないことにしようと騒ぐマスメディア。被害者の名誉と尊厳をますます傷つけていることに気がつかないのだろうか。(神原由美)