週刊金曜日 編集後記

1012号

▼子ども時代の安倍首相の家庭教師をしたという某自民党代議士の証言によると、「あまりに出来が悪く、何度か定規で頭を叩いた」という。さもありなんと思うが、もはや頭の悪さというより、首相は錯乱の域に達しているようだ。先日の国会で日本軍「慰安婦」問題に関し、『朝日』の「誤報」で「多くの人々が傷つき……日本のイメージは大きく傷ついた」などと口にしている。あたかも「傷ついた」のは彼女たちではなく、日本人だとでも言いたげだ。以前訪米した際、ブッシュの傍らで神妙な顔をし、「辛酸をなめられた元『慰安婦』の方々に……申し訳ないという気持ちでいっぱい」と述べたのはウソだったのか。これほどひどい暴言を耳にした隣国の憤りを想像するのは困難ではない。だが国内で問題視されないのは、恥知らずの右派論者を総動員しながら、御用紙と週刊誌が繰り広げた「国を貶めた」式のデマにまみれた『朝日』叩きの狂態の賜に違いない。おそらくこの国の支配者とその追従者は、隣国から正常な神経を有する相手として遇される機会を永遠に逸したのではないか。(成澤宗男)

▼正直に言うと、私も最初は戸惑いました。今週号から始まった芸術家・ろくでなし子さんの連載漫画『ワイセツって何ですか? 「自称芸術家」と呼ばれた私』。なにせ“あの3文字”を連呼しているのですから。
 でも、なし子さんに会ってお話をお伺いするたびに、少しずつわかってきたことがあります。
 自分の性の問題は自分だけが決めるもの。他の誰にも口を出されることではありません。戦争に向かう時代では、国家が性をコントロールしようとします。東京藝術大学で行なわれたシンポジウムの報告を10月10日号に掲載していますので、ぜひお読みください。
 また、なし子さんの活動は「オヤジたちに支配されてきた女性性」を解放するものでもあります。解放してこそ、初めて自分のものとできる性。彼女の作品からは「私のまんこは私のもの!」という叫びが聞こえてきます。
 なし子さんの連載に違和感を覚える読者の方もいるかもしれません。その「違和感」がどこからくるものなのか、考えるきっかけになれば幸いです。(赤岩友香)

▼「20世紀には、ひとたび紛争が起きると、女性の名誉と尊厳が、深く傷つけられた歴史がありました」「21世紀こそ、女性に対する人権侵害のない世界にしていく。日本は、紛争下での性的暴力をなくすため、国際社会の先頭に立ってリードしていきます」
 これ、誰の発言だと思いますか。実は安倍晋三首相です。9月25日の国連総会でのスピーチですが、「どの口が言うとんのじゃ」という国際的ツッコミ待ちの壮大なボケなんでしょうか。その他、こんなことも言っています。「無辜の民に惨禍を及ぼした戦争の暴虐を憎み、平和への誓いを新たにするところから、日本は戦後の歩みを始めました」「不戦の誓いこそは、日本の国民が世々代々、受け継いでいく、育てていくものです」。
 これも「どの口が?」と言いたくなりますが、実現させればいいんですよね。ノーベル平和賞は逃したけれど「憲法9条を持つ日本国民」に40万人超の推薦署名が集まったのは事実。あなたの言葉が「ウソ」でも私たちが「真」にしますよ、安倍さん。(宮本有紀)

▼いまここ(金曜日)に居るのは、「戦争をしたくない」その一念からだ。反戦ビラを投函した人が逮捕・拘留され、「日の丸・君が代」を拒否する教員が処分された9年前、右に大きく振れた座標軸に危機感を抱いた。いつか戦争が始まるのではないか。その愚かな行為を回避するためには、『週刊金曜日』の部数を伸ばすことが一つの方法ではないか。本気でそう考え、会社の門をたたいた――。月日は流れ、この国のさらなる傾き具合は言うまでもない。ただその異常さへの危機感の表れなのか、緩やかに減少を続けてきた本誌の部数は、むっくりと上昇の気配を見せている。諦めてはいけない。
 こうしたなか、志を同じくする中小の出版社が集まり、11月1日(土)東京・神保町において、書籍の即売会を実施する。題して『戦争前夜 本の街で「平和」を考える』(詳細は次週発売の10月24日号裏表紙にて告知します)。当日は座談会やミニシンポジウムを交えながら、「平和」を考えるための書籍の販売を行なう。ぜひお立ち寄りください。(町田明穂)