週刊金曜日 編集後記

1013号

▼近刊の『天野祐吉対話集 さよなら広告さよならニッポン』(芸術新聞社)。扉に天野さんのこんな趣旨の言葉がある。「会いたい人がいれば会いに行けばいい。その人が死んでいたら、その人の本を読めばいい。そうすれば、その人に会える。その人の言葉に会える」。まさに。筑紫哲也さんとの対談など、お二人が目の前で話しているような満足感が得られる。
 今週号の特集では、ご自身の戦時体験から「慰安婦」について作品を残している方にも生の声をいただこうとしたが、実現しなかった。たとえば漫画家の水木しげるさん。92歳。無理はお願いできない。他にもこういう例があり、今は貴重な体験を伺える「ちょうどぎりぎり、タイムリミット」であることを痛感した。大いに落胆はしたが、そんなときに読んだのが冒頭の天野さんの言葉。
 文学にも映画にも、「慰安婦」の姿はしっかりと(!)描かれてきた。それに触れれば、私たちは作者に「会って、話が聞ける」。問題は、伊藤氏貴さんも書かれているように、「触れようともしない」姿勢だろうと思う。(小長光哲郎)

▼自分の住む街で、道行く人たちに反戦を訴え始めたのは1999年、「周辺事態法」が成立し自治体にも戦争協力義務が発生すると知ったときだった。米軍の後方支援なんかではなく、武器を持たないことが「平和」であることをただただ期待してのことだった。時には無防備都市宣言の実現を心待ちにしたこともあった。
 世の中の平和を希求する声はかき消され、いまや地球規模で、それも「平時から緊急事態まで切れ目なく」自衛隊が海外へ派兵される時代が近づいてきている。日米ガイドライン中間報告で「周辺事態」の項目が削除された。自衛隊員の命をあまりにも軽く考えている安倍首相。小渕前経産大臣らの進退問題にうろたえるより、憲法違反の悪政を貫く自身の進退をこそ問題にすべきではないのか。
 御嶽山の火山噴火で遭難した人たちの救援活動に、連日全力をつくしていた自衛隊員。その隊員がやがては海外へ派兵されるこの事態を許しておいては、与党の議員は政治家と言えない。(柳百合子)

▼7月?9月クールのドラマ「若者たち2014」(フジテレビ系列)。私たちの世代には懐かしい60年代の同名ドラマのリメイクであり、妻夫木聡、瑛太、満島ひかりといった実力派若手俳優が顔を揃えるなど、そこそこ期待したのだが、“生活苦”の設定のはずなのに、いまひとつリアリティがないなどで、あまり入りこめなかった。
 旧作で記憶に残っているのは、テレビではなく映画版『若者たち』で、山本圭演じる三男が、札を燃やして「人間は金より強いんだ。こんな紙切れより強いんだ」と叫ぶシーン。燃えあがる1万円札の映像は即物的な分、鮮烈だった。
 リメイク版の最終回でも同様の台詞が出てきたが「ひとは金のために生きているんじゃない」に続く台詞は「金に困ったらいつでもこの家を売れ」。う?ん、違う。
 リメイクに合わせた旧作の再放送も何本か見た。1本は在日朝鮮人差別がテーマで、当時放映中止となった上、それがきっかけでドラマ自体も翌週打ち切られた曰くつきの作品。今回その回も放映されたが「どこが問題なの?」といった内容。メディアの自己規制は今も昔も変わらない。(山村清二)

▼食欲の秋だというのに、書店ではダイエット本が売れに売れているらしい。玄米菜食、糖質制限ときて現在は、一日一食野菜だけなんて本も好評とのこと。私には到底無理。小渕さんがタダで下仁田ネギをくれてもそんなダイエットは耐えられない。
 読書の秋だというのに、書店では読むに堪えない軍政プロパガンダ本のようなものが売れに売れているらしい。隣国を卑下し、愛国心を煽る。煽るのは、松島さんのうちわだけで十分だろう。
 もしかしたら今は臥薪嘗胆“戦時の秋”か。それで不食や戦意を煽る本が売れているのだろうか。
 否、11月1日(土)東京・神保町にて「戦争前夜・本の街で『平和』を考える」と題した書籍の即売会・シンポジウムが開かれる。スローガンは「戦争への道」を阻止する!、「言論の自由」を侵害させない!、一切の「差別」を許さない!だ。もうデング熱の心配はないので振るって参加してもらいたい。近くの「神田カレーグランプリ」でカレーを食べまくって私も参加する。(尹史承)