週刊金曜日 編集後記

1019号

▼本誌10月3日号で、新進気鋭のフォトグラファー・藤元敬二さんの写真・文による「名もなき闘い――ネパール、HIVと暮らす」を掲載いたしましたところ、「この家族に送ってほしい」と、3万8000円が送られてきました。
 このような場合、しかるべき窓口をご紹介し、直接送金していただくようにしていますが、今回は差出人の住所も名前もない、まったくの匿名です。藤元さんと相談し、記事で取り上げたソリタ・バッタさん一家を支援しているNGOを通じ、渡してもらうことにしました。いくつかの国境をまたぐ送金となるゆえ、今日明日にソリタさん一家に届くというわけにはいきませんが、藤元さんが責任持って届けるとのことです。藤元さんのブログなどでも、その旨、アップされています(URL http://www.keijifujimoto.net/)。
 藤元さんも私も、この方の尊い心に感激しました。ありがとうございました。この場を借りて報告と御礼申し上げます。(渡辺妙子)

▼1954年にアメリカが太平洋上で実施した水爆実験で、被ばくしたとされるマグロ漁船乗組員の被ばく実態について、これまで厚生労働省は「保有していない」としていたものの一転して9月19日に文書の存在を認め、開示した。
 これを受けて、緊急制作されたテレビ番組「放射線を浴びたX年後 3 棄てられた被ばく者」が11月2日に放送された(劇場公開された映画『X年後』とは別のもの)。しかし開示された文書はかなりの部分が黒く塗りつぶされていた。この期に及んでもまだ黒塗りである。いったい、なにを隠そうというのか。当時、米国からの200万ドルと引き替えに真相は隠蔽され、遺族たちは大黒柱の死について語ることも許されなかったという。もうバレバレである。
 先週、撮影ディレクターの伊東 英朗氏が執筆した単行本『放射線を浴びたX年後』(講談社)が刊行された。国は「ただちに健康に影響はない」という。その「ただちに」から「X年後」、我々は黒塗りの理由を知ることになるのだろうか。(本田政昭)

▼生まれた時から電子機器に囲まれ、操作できるデジタル・ネイティブ世代と、大人になってデジタルに適応する世代との違いを、10代の息子を見て感じてきた。
 デジタル・ネイティブ世代のエドワード・スノーデン氏が、デジタルな技術と方法で、内部告発をした昨年の出来事を知り、彼が人生を賭する決断をしたことに衝撃を受けた。彼が自分を教育し、社会的な交流を経験したインターネットの自由が奪われることが許せなかったという。
 スティーブン・レビーの訳書『暗号化』で、暗号を巡る米国政府機関とハッカー(犯罪者ではなく技術者)たちとの自由を守る攻防の上に、現在のネット上での安全を守る技術が作られたことを知った。ネット、またソフトウェアの企業・政府による独占を嫌い、個人の自由を最大限に守ることが、ハッカーたちの目指すことである。現在、自由に使える、匿名化と暗号化の技術を用いて、自分の身を守らなければならない時代になった事を実感する。(樋口惠)

▼米国オクラホマ州の核燃料製造工場で働いていた女性の内部告発を描いて30年前に話題になった映画『シルクウッド』のDVDを遅ればせながら観た。同僚や自分自身も次々と被ばくする中で、会社が燃料棒の検査記録を改ざんしていることを知った彼女は新聞記者に証拠資料を渡す直前に不審な交通事故で死に、映画は終わる。
 離婚し、恋人と友人の3人で共同生活をしながらたまに子どもと会う日常的な暮らしの中で展開される残酷な事実に、何とひどい国だろうと何度も怒りが込み上げた。だが、安全なはずの原発が大事故を起こし、「だめだと思った」と話す現場責任者の聴取結果書が長く秘密にされ、総選挙で認められたことにして再稼働に走ろうとする日本も変わらないのではないか。
 事件の深層を知りたくて原作のノンフィクションを取り寄せて読み、CIA、FBIも絡んだ闇のすさまじさにまた衝撃。映画の中でメリル・ストリープが歌う「アメージング・グレース」の調べに唯一慰められた。(神原由美)