週刊金曜日 編集後記

1020号

▼「これまで個別具体的にいろんなことを言ってきたけど、もっと大きなストーリーというか、より本質的なことを訴えないと今の状況は変わりようがないな」。いつも会う珈琲店で金子勝さんがそう言ったのは、今年の初夏だったか。「こういうやつ、やってみますか」と私は提案し、ようやく実現したのが今週号の特集 《金子勝責任編集 未来は選べる!》 だ。
 本誌初登場の伊東俊彦さん、伊多波宗周さん、高橋若木さんをはじめ、満田夏花さんらの論考も切れ味がいいが、金子さんとの対談で竹田茂夫さんが繰り出す「国家市場複合体」「スローバイオレンス」といった言葉と概念は現在の状況を鋭く映し出す。私を含む99%の側がこれらにどう反撃し対抗しうるのか。それを試される衆院選の結果がまもなく出る。
 つまみ食い的に都合のよい数字だけをアピールする「アベノミクス」に惑わされるのか、この国を根本から変えようとする民意が示されるのか。われわれの一票で「未来は選べる!」。(片岡伸行)

▼世界的ベストセラーとなっているトマ・ピケティ著『21世紀の資本』。日本でも今月9日にみすず書房から翻訳書が刊行されました。同氏は18世紀まで遡り、膨大なデータをもとに世界的な格差ができた構造を解き明かしています。富がある人は彼ら彼女らの努力の賜で、格差は仕方ないことでしょうか。決してそうではありません。
 ピケティが『21世紀の資本』で伝えたかったことを『ピケティ入門 「21世紀の資本」の読み方』と題し、弊社から刊行しました。筆者は格差社会の現場を取材している竹信三恵子さん。『21世紀の資本』の解説に加え、アベノミクスから日本社会を読み解きます。
 そして今年春、弊誌に掲載して大きな反響を呼んだ辺見庸さんと佐高信さんの対談を大幅加筆し、刊行しました。タイトルは『絶望という抵抗』。「人間が侮辱される社会」に対し、私たちがどう対峙すべきか。指針となる言葉があふれています。来年には、9日現在、勾留中のろくでなし子さんの漫画も刊行する予定です!!(赤岩友香)

▼アンテナ欄でも書いたが、2005年から始まったやより賞が最終年を迎えた。病床の松井やよりさんに最後のインタビューをさせていただき、やより賞創設後は贈呈式を毎年取材してきた私にとっても感慨深いものがある。
「慰安婦」問題解決に尽力された松井さんの名を冠した賞が、この問題がこれほど攻撃された年に終わってしまうのは、決まっていたこととはいえ残念ではある。ただ、選考委員を務めた池田恵理子さんが「社会のいろいろな問題に光をあててきたが、賞が終わってもこの闘いは続く。賞をきっかけにつながった女たちがさらにつながりを深めて広がっていくことが重要」と話しておられたように歴代受賞者や選考委員たちは、「これで終わり」とは思っていない。それは同じく選考委員を務めた辛淑玉さんの言葉に濃縮されている。
「賞は一度閉めますが、女たちの闘いは続きます。あなたの隣には私がいます。私達の後ろには、故松井やよりさんがいます。前に、前に。進みましょう」(宮本有紀)

▼「子ども・子育て支援新制度」なるものが来年度から始まるらしく、保育園でも立派なカラー印刷の紙が配られたが、読んでも読んでもよくわからない。同じ保育園のママ友(出版社の編集さん)は、
「ちらっと見たけどよくわからなかった。すでに通っていれば関係ないよね?」。
 いい紙を使って印刷もきれいで立派な配布物なのだけれど、一番私たちに必要なことつまり在園児は何を気にしなければならないか、はわからない。
 自治体など、公のwebサイトをいろいろ見てもどういう制度なのかよくわからない。入園希望者対象の説明会も、満員の回ばかりで参加も難しいらしい。新制度の問題点を指摘しているwebサイトを見て、やはりつっこみどころは満載らしいというのはわかった。
 待機児童の解消のために認可保育園を増やす=認可の基準を緩める? 入園希望者がとりあえずどこかの園には入れるかも……。他に何がどうよくなるのだろう?(佐藤恵)