週刊金曜日 編集後記

1021号

▼「日本のみなさんにとって、民主的な選挙は当たり前のことなのかもしれません」「でも私たち香港の人々は、闘わなければ民主主義を手に入れることはできません」――民主的な選挙を求めて抗議行動を続けている香港「雨傘革命」の若者たちから、選挙の投票率が低いとされる日本人へのメッセージだ(「ハフィントン・ポスト」12月14日付)。結果は戦後最低投票率での与党圧勝。政権と資本主義の暴走が一層進むかと暗澹たる気分になるが、本号の白井聡さんと平井玄さんの対談や、大内裕和さんと竹信三恵子さんの対談には、選挙後を見すえた、今後の思考と行動への示唆も多い。叛乱への回路は「新しい階級」(白井)か「世襲なき中流階級」(大内)か「マルチチュード」(ネグリ)か……どれもありだし、どれでもないし、すべてかもしれないが、自公圧勝の中で唯一、沖縄の闘いに香港の若者の言葉に通底するものを感じながら、「何をなすべきか」(レーニン)は、意外にシンプルなのでは、と思う。(山村清二)

▼公立小中学校で、一人ひとりの子どもの状況によりそった指導をする「情緒障害等通級指導学級」が2016年度からなくなる。
 10年に「東京都特別支援教育推進計画(第三次実施計画)」が発表され、12年からはモデル地区で計画の「特別支援教室」が実施されている。が、実態は子どもの状況を無視しているとしか思えない内容で、拠点校に2名の教師を配し3校を巡回指導するようになるとも言われている。これは誰が考えても教育費のコストダウンを狙っているとしか思えない。「モデル地区の様子を知りたい、要望を反映させてもらいたい」という思いを込めた保護者らの陳情署名が都議会文教委員会に先月26日に届けられ審議されたが、結果は不採択。こんな切実な陳情を不採択にする都議会と都行政を許しているのは、私たちの無関心以外の何物でもない。「東京の障がい児教育を充実発展させる会」のHPで実態を知ってほしい。(柳百合子)

▼遅ればせながら映画『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』(監督・脚本:齊藤潤一、2012年)を観た。無実を叫びながら、半世紀も拘置所に閉じ込められた奥西勝さん(87歳)。描かれたその生き様もそうだが、何度も棄却される再審請求、司法の問題にも触れていて、見応えのある作品だった。奥西さんは、現在は東京の八王子医療刑務所で病と闘いながら第八次の再審開始を目指している。弁護士の話によると、やせて細くなった腕に手錠がかけられ、ベットで横になっていてもなお、紐でつながれているのだという。
 死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90の報告によると、安倍第一次・第二次政権は合わせて21人の死刑を執行。しかも今年8月に谷垣法相によって執行された二人ともが再審請求の準備中だった。再審請求すると、その間は執行できないので狙われたという見方もある。間もなく新内閣発足。このような死刑制度のあり方を許してはならない。(吉田亮子)

▼期日前投票で思い出した。投票日1週間前なのに投票所入場券が見当たらない。市のHPによると発送が遅れているとのこと。あらかじめ決まっていた市議会議員選挙の前に解散総選挙が行なわれることになったため、月曜日発送になってしまったそうだ。まさに大義なく甚だ迷惑な選挙であった。
 選挙結果に落胆し、失望した方も多かろう。でも反撃はこれからだ。強い相手からパンチを浴びても立ち上がる八重樫東選手のように。辺見庸、佐高信著『絶望という抵抗』(金曜日刊)。私たちの覚悟が問われている。そして、世界を席巻した話題の書『21世紀の資本』を読み解く竹信三恵子著『ピケティ入門』(金曜日刊)。アベノミクスは格差を解決できない。では解決策とは? 慌ただしい年の瀬ですが、ぜひ書店に立ち寄りお買い求めください。なお年内の最終営業日は25日、業務開始は左記の通りです。来年もよろしくお願い申し上げます。(原口広矢)