週刊金曜日 編集後記

1028号

▼先月末、『21世紀の資本』の著者であるパリ経済学校のトマ・ピケティ教授が来日し、日本でも「ピケティ現象」が起こっている。
 同書の解説書が多く出版されている中、弊社から刊行した竹信三恵子さんの『ピケティ入門』は『21世紀の資本』の解説に加え、同書の理論をアベノミクス批判に当てはめたところが特徴だ。ピケティ教授も批判したアベノミクス。もちろんアベノミクスが日本の格差の始まりではない。ピケティ教授は「日本の最高所得税率は1960?70年代より下がっている。上位10%の所得が増えているのに、税率が低い状態では格差が広がるばかり。所得税の累進性を高めるべきだ」とも語っている。
 これに対し、「ピケティ教授の理論は日本には当てはまらない」「アベノミクスは格差を解消している」などという論調が見受けられるが、果たしてそうなのか。「ピケティ現象」を一過性のもので終わらせず、「民主主義は闘争」(ピケティ教授)に結びつけていくことが重要だ。(赤岩友香)

▼日本で最大級の資産規模を持つ公益財団法人に「日本財団」がある。1962年設立の(財)日本船舶振興会が前身だ。2011年から現名称で、財団ホームページの「ごあいさつ」冒頭には〈設立以来50年以上にわたり、社会をよりよくする活動を推進〉してきたとある。だが活動〈理念〉〈領域〉〈指針〉のどの項目にも、財団が「競艇」の収益金をもとに運営される事実は書かれていない。
「何」で儲けているのか明かさない団体が03年度、5000万円以上をかけ実施した事業(「組織運営と事業開発に関する調査研究」)の成果物に「私はこう考える」と題する、新聞の切り抜き集がある。
 執筆陣には高橋史朗や藤岡信勝、中曽根康弘、三浦朱門といった面々が連なり、財団運営の電子図書館で公開されている。曽野綾子は03年、財団「前会長」の肩書きで社会問題は〈一方向からだけではなく、あらゆる角度から検討する姿勢が必要〉として彼らの記事公開を表明した。曽野の視野の狭さが公開されている。(内原英聡)

▼沖縄・米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市での新基地建設問題で〈いま辺野古で起きていることは、民主的な社会のありようとはあまりにかけ離れている。市民の安全は考慮されず、「いつか死者が出る」との声が上がるほど異常な事態である〉(『沖縄タイムス』2月5日社説)。〈現場では船上で女性に馬乗りになってカメラを奪おうとしたり、沖合3キロの外洋で拘束したカヌー隊を置き去りにしたりするなど、安全確保とは逆の人命と人権を脅かしかねない行為が続いている〉(『琉球新報』同10日社説)。だが、この海保による“弾圧”を全国紙はほとんど報じない。本誌も報道を続けるが、「速報」は沖縄2紙の公式サイトを読むことをお勧めする。
 次の大規模な抗議行動は2月22日午前10時から海上行動が辺野古沖で、午後1時から県民集会が米軍キャンプ・シュワブゲート前で開かれる。野党国会議員や県議会与党らの実行委員会主催で2000人以上の規模を目指すという。注目したい。(伊田浩之)

▼あの大震災から早くも4年が経とうとしている。まるで昨日のことのようだ。発生直後の翌週から、3カ月間で1000件以上の定期購読の申込みをいただき、店頭では暫く完売状態が続いた。原発に対するそれまでの報道姿勢が評価されたからだと思うが、多くの犠牲者と原発震災で住まいを奪われた方々に思いを馳せると、複雑な気持ちであった。しかし我々の力不足。その後、購読を継続される方は半数にも満たなかった。
 こうしたなか、昨秋「従軍慰安婦」問題を特集して以降、書店での売れ行きが堅調だ。加えて定期購読の部数も緩やかな右肩下がりから、でこぼこの曲線を描いている。にわかには信じられないが、『読売新聞』の調査によると安倍内閣の支持率は58%。1月の調査から5ポイントも上昇したという。しかも「イスラム国」による人質事件への対応を評価する声が支持率を押し上げたとの報道だ。言うまでもない、本誌売れ行きのバロメーターはこうした「時代状況」にある。(町田明穂)