週刊金曜日 編集後記

1029号

▼駆け出し時代に宴席で記者数え歌を聞いた。当時は社内だけでなく他社の記者も知っていたが、手拍子で歌うことなどめっきりなくなった(そもそも宴会自体が少ない)せいか、40代以下の記者はあまり知らないみたいだ。地域や人により細かな歌詞の違いはあるようだが、大体こう始まる。〈一つ、一人で書くのを特ダネ原稿と申します。胸が躍ります……〉
 そう、極論すれば特ダネ原稿とは一人で書くものだ。朝日新聞社の報道と人権委員会(PRC)は、吉田調書報道について〈秘密保護を優先するあまり、吉田調書を読み込んだのが直前まで2人の取材記者にとどまっており、編集部門内でもその内容は共有され〉なかったことを問題点にしているが、小誌がこれまで指摘してきたように、『朝日』の記事は誤報ではない。秘密にされていた資料を無闇に共有しないのは取材源の秘匿の観点からも当然だし、専門知識がなければ「猫に小判」の可能性もある。こんなことは、イロハのイのはずなのだが……。(伊田浩之)

▼「自民党の劣化」を特集した先週号に間に合わなかったのが残念だが、2月19日にそれを象徴する出来事が二つ。志位和夫・共産党委員長の衆院本会議での代表質問(17日)時、「さすがテロ政党!」との言葉を浴びせた山田賢司議員(兵庫7区)が共産党に発言撤回と謝罪をした。もう一つは、民主党議員が西川公也農林水産相(23日に辞任)の砂糖業界からの献金問題を質問しているとき、安倍晋三首相が質問内容とは無関係の「日教組!」などの妄言を吐いた。
 山田議員は自民党ヘイトスピーチ対策検討プロジェクトチームの初会合(昨年8月28日)で、国連の勧告について「日本を貶めるため」とし、「人権団体は朝鮮系の団体が中心」で、「右翼はうるさいが、むしろ左翼がうるさい。排除しなくていいのか」などとヘイト団体まがいの発言をした。いずれも本性をさらけ出したわけで、品性・知性の下劣さ丸出し。上から下までこんな輩ばかりでは、いよいよ安倍自民が国民から見放される日も近いか。(片岡伸行)

▼中学時代、友人が弁当箱を開けると海苔で「バカ」と書いてあって、本人は嬉しそうだったのを、話題の『今日も嫌がらせ弁当』で思い出した。個人的には、「嫌がらせ」というネーミングも含めて何が「いい」のかさほど共感できないけど、本にとくに文句はない。
 ただ、この本がネットで「なんて素敵な親子なんだ!」など絶賛の嵐だと知ると、あーまたか、と思う。そこまで素敵とも思わないし……は置くとして、最近、ネットという空間で何かを「絶賛」して気持ちヨガッテいる人がやたら多い気がしてならない。よく指摘される「ヘイト空間」ならぬ「絶賛空間」。誰かが結婚すれば「素敵なお相手ですね。お幸せに」とかいちいち書き込む。芸能人が素顔をブログにあげれば「○○のすっぴんに絶賛の声!」という記事が(これ、もう見飽きた)。知人が「Twitterは何も考えずにバッシングするひとを増やし、Facebookは何も考えずに賞賛するひとを増やした」とメールしてきたが、言い得て妙だと思う。(小長光哲郎)

▼「他の人と同じ服を着て、そのことに何の疑問も抱かない。(中略)情熱や興奮、怒り、現状を打ち破ろうという意欲が弱まってきている。そんな風潮に危惧を感じています」(コム・デ・ギャルソンのデザイナー川久保玲氏の言葉)。
 即席のファストファッションが業界を席巻して久しい。個性あふれる奇抜なデザインでモデルがランウェイを闊歩することは少なくなった。“創り出すもの”から“求められるもの”へ。供給する側は、長引く不況を言い訳にし、消費者側は、没個性を望む。両者の利害は一致し、同じような安直なスタイル、流行が氾濫する。そしてそれが大量に消費されていく。
 先日、東京・恵比寿で開かれた服飾系ファッションショーを見る機会があった。デザインは服飾系専門学校の学生。どのスタイルも斬新で挑戦的なものばかり。同行したものは「奇抜すぎて作品の善し悪しがわからない」と評していたが、これほどの褒め言葉もないだろう。他人に簡単に理解されたらそれは創作ではない。(尹史承)