週刊金曜日 編集後記

1038号

▼「抑 憲法を創設するの精神は、第一君権を制限し、第二臣民の権利を保護するにあり。故に若し憲法に於て臣民の権利を列記せず、只責任のみを記載せば、憲法を設くるの必要なし」
 大日本帝国憲法を審議している時の伊藤博文の言葉だ(『枢密院会議議事録第一巻』)。当時でも、これくらいの知識と意識はあった。「国民の権利ばかりで義務がほとんどない」ってな意見がでるような昨今の憲法調査会、憲法審査会での議論とはレベルが違う。
 きちんと教わる機会が少ないからか「憲法を知らない大人たち」が増えている。特に憲法の内容も意義も歴史的経緯も理解していない人が国会議員になって改憲を言い出すから参る。法学部出身なのに立憲主義を知らなかった議員もいるくらいだから、安倍晋三首相が憲法13条について訊かれて答えられなかったのも無理ないのかもしれないが、首相がそれでは困る。改憲や論憲の前に、まずは「知憲」をお薦めしたい。(宮本有紀)

▼今週号より、かわら長介さんの新連載開始です。木村元彦さんが先週号「『金曜日』で逢いましょう」でかわらさんを紹介、「1980年代を関西で暮らした方なら、以下のテレビ番組を素通りできなかったに違いない」と書かれてますが、まさに私がそれ。深夜に「夜はクネクネ」、夕方起きて「4時ですよ?だ」を見る。前者は芸人と人気アナがたらたら大阪の夜の街を歩くだけ。なぜあんなに魅力的だったのか! 後者では「凄みのある笑い」が存在することを初めて知った。私的に、ダウンタウンはあの番組が最高でした。
 当時からそのお名前は知っていましたが、権威的なものに対し徹底して反骨! な方だと知ったのはブログに接した最近のこと。社会的に虐げられた人たちへの目も温かい。手がけた番組に通底するのが無機的でなく、人間臭ーい笑いである理由はそこだったのか、といまにして思う。クスりとするとかそういうのを突き抜けた、有機物による凄みのある笑い再び、にご期待ください。(小長光哲郎)

▼電子書籍を定期的に出版することになりました。商品管理や経理処理の都合などもあり、当面はアマゾンのキンドル版のみとなります。キンドル端末をお持ちでなくても、無料アプリを導入すれば各種パソコンやスマートフォン、タブレットで読むことができます。
 4月の新刊は雨宮処凛編集委員の「風速計」をまとめた『酒と泪と政治と子猫』(300円)と、小嶋進元ヒューザー社長の書き下ろし『偽装――「耐震偽装事件」ともうひとつの「国家権力による偽装」』(700円)。『偽装』は、冤罪に関心がある人に是非読んでいただきたい本です。
 既刊の『『はじめてのマルクス』を読むために』(鎌倉孝夫・佐藤優著、300円)と『特定秘密保護法案と日本版NSC』(佐藤優・福島みずほ著、101円)も好評をいただいています。
 各編集委員のコラムや、くらしページで評価が高かった連載などを今後は月2?3冊程度まとめていく予定です。楽しみにしていただければ幸いです。(伊田浩之)

▼麻生副総理兼財務相がフェニックステレビの李〓記者を嘲笑したとしてニュースになっている。日本の言論の自由を誇りながら嘲った麻生氏に、日本人記者から抗議の声はなく、一緒になって笑っていたという。麻生氏には反省がないが、彼のみではない。安倍政権を批判する側もこの政権を喩えて「中国共産党にそっくり」「豊かな北朝鮮」「土地と資源のあるシンガポール」などと言っている。安倍首相をヒトラーに喩えることも大人気だ。そこには大日本帝国への憧憬を隠そうともしない安倍政権の本質が、戦前からこの社会で脈々と受け継がれていることから徹底的に目をそらす、この社会の現実がある。パラオ訪問時の天皇の言葉が自然災害のように戦争を表現し、全滅を「玉砕」と美化しながらも、護憲派の一部にすら「平和への思い」と持ち上げられたのも、その現実の反映だろう。大本営用語すら批判できない、反省を欠いた平和など欺瞞でしかないのではなかろうか。(原田成人)