週刊金曜日 編集後記

1040号

▼国税庁が昨年発表した「民間給与実態統計調査」によると、男性は年齢が上がると年収も上がるのに、女性はどの年代(20?60代)も平均年収200万円台とほぼ横ばい。そしていったん職を失うと、年齢の壁が立ちはだかり、再就職が難しい(できない)のも世間の“常識”。今週の特集で取り上げた「女性の貧困」、世代間連鎖の貧困のみならず、失職がきっかけの貧困など、その原因はさまざまです。でもどの事例も、決して他人事ではないと思えるのです。
 今回の特集中、「女子」「アラフォー」「熟女」といった言葉を使っています。これらの言葉に嫌悪感を持つ方もいらっしゃるでしょう。しかしこのような言葉が生まれること自体、女性の置かれた立場や、今の時代の雰囲気を表していると思い、使用しました。本来カッコ(「 」)でくくっての使用がふさわしいのでしょうが、煩雑になるため省略しました。ご理解いただければ幸いです。(渡辺妙子)

▼辺見庸氏の小誌連載「1★9★3★7」の、深く濃密な叙述に、毎号、一読者の立場で、心が揺さぶられている。特にここ何号か続いた武田泰淳をめぐる、肺腑を抉るような文章には圧倒された。
 泰淳を初めて読んだのは、高校のとき。世界史の担当教員が変わった人で、授業は教科書を使わず文庫本で、古代中国史が泰淳の『司馬遷 史記の世界』だった。「司馬遷は生き恥さらした男である」という印象的な冒頭と、その意味(去勢刑)もあって、泰淳の名が脳裏に刻み付けられた。
 最近、久々に同書を手にとり、奥付の年譜を見ると、『司馬遷』執筆構想は1939年。37年に召集され、除隊した直後だ。辺見氏が書く泰淳の戦場体験を意識すると、冒頭の一文を含めて読み方も大きく変わった。
 ちなみに、17歳の初読では「刺客列伝」の筆致に心躍ったが、今回、読んで心に残ったのは老子や孔子を論じたところ。還暦過ぎのなせるわざでしょうね。(山村清二)

▼「戦争法案」が閣議決定された翌日、シビリアンコントロールの廃止や、防衛装備庁新設をもくろむ防衛省設置改正法案が衆院で可決されてしまった。あの戦争の貴重な教訓である「文官統制」でさえつぶしにかかる憲法無視の安倍首相。あまりの傍若無人に、先月24日の衆院安全保障委員会では、「防衛装備庁は『武器調達庁』、日本に軍産複合体の流れをつくってしまう」、と西川純子獨協大学名誉教授が参考人質疑で「喝破」したという。日本に憲法裁判所がないのが悔しくてならない。
 岐阜県で多額の「年金不正受け取り」事件が明るみに出たとき、かつて「国民総背番号制」の問題を指摘していたテレビ番組で、総背番号制の「利便性を高めてほしい」と発言するコメンテーターがいて驚かされた。「戦争法案」が法制化されたら、このコメンテーターのように批判感覚がマヒする人が増え、「戦争」が日常化されてしまいそうで怖い。(柳百合子)

▼今の日本社会を覆うキーワードの一つに「反知性主義」が挙げられます。反知性主義をカルチャーから読み解く、「知の怪物」佐藤優さんと「気鋭の精神科医」斎藤環さんの対談『反知性主義とファシズム』が発売されました。本誌に掲載したAKB48と村上春樹作品に加え、宮崎駿作品や日本にファシズムは浸透するのか、という本書のための語り下ろし対談も含まれています。お二人の刺激的な対談から今後の日本が見えてきます。
 告知が続きますが、漫画家・石坂啓さんと評論家・佐高信さんの講演会「金曜日文庫」3回目は、5月29日(金)18時30分?20時、寺島文庫で開かれます。テーマは「マンガとテレビ 『アイムホーム』の話」。参加費は2000円で、先着30人、要予約。申し込み先はファクス 03-3221-8522、またはメールアドレス book@kinyobi.co.jpまで。件名は「金曜日文庫3回目申し込み」でお願いします。(赤岩友香)