週刊金曜日 編集後記

1052号

▼東京の渋谷駅北口スクランブル交差点を渡った歩道にある電力制御盤。そこに、星条旗をあしらった帽子をかぶり、真正面を向き、I WANT YOUと指さす、安倍首相の大きなステッカーが貼ってある。旧センター街に抜ける細い道のビルの壁に何枚も貼ってあった。米国で第二次大戦まで新兵募集に使われていた、米国を象徴すると言われる、アンクル・サムのポスターのパロディで、戦争法案の意味が一目でわかる。
 そう言えば、3・11後、同じ場所に、これも一目で脱原発だとわかる、女の子のステッカーが貼ってあった。作者は、281_Anti nuke氏。日本のバンクシーとも言われる、覆面アーティスト。国内外で紹介され、政治的な主張で知られる。デモのプラカードを提供し、経産省前テントひろば支援のTシャツのデザインも提供する。
 彼のステッカーは何となく見て覚えていたが、彼自身のことを知らなかった。街の建物などにステッカーを貼るのは「違法」かもしれないが、それも含めた、アートの力なのだと思う。 (樋口惠)

▼親バカだとは思うが、このところ、複数の大学のオープンキャンパスに高校生の息子と出かけている。大学によって雰囲気がかなり違うので、いろいろと面白い。そこは、加速度的に「株式会社化」する大学の、教育という「商品」をプレゼンテーションする場であり、子どもや保護者にとっては、効率良く最高の結果を手に入れる「買い物」をするための情報収集の場でもあるが、「役に立たない文系学部は潰される」という噂を聞くと正直アタマにくる。人文系廃止上等!ならば身銭を切るよ。
 人は、大学でなにを学ぶのだろうか。理想的すぎるかもしれないが「豊かさ」でありたいと思う。大学は、文科省が妄想する「社会に必要とされる人材」を生み出すだけではなく、社会に生きるさまざまな人々に対する想像力と寛容さを持った「成熟した大人」を育成する場であってほしい。
 戦後70年、日本の学校教育は大きな節目を迎えている。あの戦争で亡くなった多くの死者たちの「学びたくても学べなかった」無念を想い、本当の「自由」とはなにか、を考える。 (本田政昭)

▼夏休み、涼を求めて草津温泉へ。わが家から割と行きやすいので、草津へはちょいちょい行っておりますが、前回行ったのは3年前(全然ちょいちょいじゃない)。
 途中、八ッ場ダムの工事現場を通ります。今回は前回と比べ工事がかなり進んでおり、国道145号線がすさまじい高さの地点に付け替えられていたのにはビックリしました。吾妻渓谷沿いの旧国道を、渓谷見物しながら行くのが好きだったのですが、そんな風情はなくなっていました。
 2年前にオープンしたという道の駅の隣には、不動大橋という大きな橋があります。橋の欄干から下をのぞくと、あまりの高さにアタマがクラクラします。そしてこの橋の下がダム湖になるというのですが、そんなこと言われても、まったく実感がわきません。
 ダムというと、私自身は完成したものしか見たことありませんでした。ダムを造るということは、こんなふうに景色が変わっていってしまうことなんだなと、しみじみと考えたのでした。 (渡辺妙子)

▼「暑さ寒さも彼岸まで」というがいつまで続くこの暑さよ。この猛暑ではさすがにエアコンに頼らざるを得ない。5階のわが家は窓をあけると多少暑さもしのげるが、最近までバルコニー塗装のため窓をあけられず不快だった。最上階まで足場を組み上げて、全ての階の外壁の修繕、塗装をするという大がかりな工事だ。
 そんな頼んでもいない突然の工事の施工者が気になりネット検索したら、なんと入札金額が公表されていたのだ。入札したのは5社。不思議なことに落札したのは最も安く見積もった業者ではなく、しかも地元企業ではなく他県に本社がある企業だった。落札基準がよくわからない。入札ってこんなものなの?
 入札といえば、話題になった新国立競技場の建設計画の入札は公表されていなかったのか。費用がかさみ批判が高まったので、今さら「国民の声に耳を傾けて」「白紙に戻しゼロベースで見直す決断をした」アベ首相。ならば国民の支持を得られない安倍法案、おっと間違えた安保法案も見直して、今こそ廃案にすべきだ。(原口広矢)