週刊金曜日 編集後記

1062号

▼16年前の1999年9月、慶良間諸島座間味島の民宿に連泊した。島を離れるとき、宿のおじぃが「つぎ来たときは戦跡も見たらいいさぁ」と声をかけてくれた。ドキリとした。おじぃは、どれほど多くのダイバーたちに声をかけ続けてきたのだろうか。最後に声をかけるのも、初日だと気まずくなることがあるからと、こちらを気遣ってのことだろう。座間味の島々は沖縄戦における米軍最初の上陸地であり、集団自決も起きている。やはり現場で頭を垂れるべきだったと恥じ入りました。
 沖縄の「やさしさ」に私たちは甘え続けてはいけない。「本土」が嫌な米軍基地を沖縄に押しつけてはならない。まして辺野古で"着工"されたのは恒久的な新基地なのだ。〈民意を無視し、地方自治をじゅうりんする安倍政権の専横が最も露骨な形で沖縄に襲い掛かったものだ。/これは沖縄だけの問題ではない。全国民が安倍政権の本質と厳しく対峙しなければならない〉(『琉球新報』10月30日社説)との呼びかけにどう応えるかが問われている。(伊田浩之)

▼「日本国憲法の理念を守ろう」。
 この言葉を墨でぬり消した封筒を東京都日野市の環境共生部(緑と清流課)が住民への書類配布用等に用いていた。SNSなどを通じて市民が指摘。原正明課長は10月30日、本誌にこう説明した。
「墨ぬり封筒は旧型デザイン。在庫があり再利用を課内に呼びかけました。そのとき新型に近づけるよう指示したが、他意はなく事務処理上のミスです。公務員として憲法を守るべき立場にあり配慮不足でした。二度と使いません」。
 他方、憲法の尊重・擁護義務や市民の権利に疎い公務員はなお多い。10月以降、山口県では周南市の「TSUTAYA図書館」建設計画に反対する市民集会が「政治活動」とみなされ、県営施設の使用許可を撤回された。宜野湾・沖縄2市は当事者に無断で2万人超の適齢者情報をまとめ自衛隊機関に提出。無知で軽率な公務員の"暴挙"が相次いでいる。(内原英聡)

▼「戦争は"文化"ではありません」と、9月に国会前で安保法制を批判するスピーチをして話題を呼んだ石田純一さん。その後、政治的発言を行なったことでテレビ業界から番組出演をキャンセルされるなどの"圧力"を受けていたとの報道とともに、国会前などに姿を現さなくなった。
 事務所側はすぐにこの圧力を否定したため、弊誌もインタビューを申し込んだ。だが、「そういった場はすべてお断りさせていただいています」との返事。圧力は受けていないものの、現在出演中のCMなどイメージが重要なものは「エンドユーザー(消費者)に不満を抱かせてはいけない」のだという。「その中には、"安倍派"もいますから......」(事務所側)。

 かたや、「完全に平和ボケ」と安保法制に反対する学生らをテレビで批判した松本人志さんもCMには出演中だ。"反安倍派"への配慮はいいのか。結局は、圧力ではなく、忖度なのだ。ここにきて、石田さんへのコメンテーターのオファーが増加したとの報道も出ている。忖度はまだ早い。フェアプレイで挑んでほしい。(渡部睦美)

▼映画『猿の惑星』を名作たらしめるのは、ラストシーンの衝撃度か。テイラー船長は、その惑星の真相を解明すべく、立入禁止区域に侵入。そこで初めてその地がはるか宇宙の彼方ではないことに気付く。そして彼は、目の前の現実に打ちのめされ、人間の愚かさを知る(チャールトン・ヘストン自身は、その愚かさを全米ライフル協会会長として体現するが......)。
 本誌先週号の表紙は、在日クルド人の集合写真を使用した。一見、どこか遠い国のようにも見えるが、目を凝らし、右上の男性が手にしているものを確認すれば、これが日本であることに気付くだろう。SF映画が示唆するように、日本の難民問題は、見えづらくとも今そこにある喫緊の"身近な問題"であり、一人一人が積極的に向き合わなければならない事案だ。
 今週号の沖縄特集も然り。いつまでひとは無関心でいられるのか。自分の家の上空に戦闘機が飛び回り、原発が隣に建ち、目の前で難民が虐げられるのを見るまで他人事であれば、行き着く先は、テイラー船長が、かの惑星で見た景色と同じものであろう。(尹史承)