週刊金曜日 編集後記

1074号

▼人類の英知はその歴史において、奴隷制度を廃止した。だが21世紀の今日に至っても、奴隷根性だけは健在だ。安倍政権が実現を狙っている一枚のカードに全個人情報を盛り込もうというマイナンバーの制度は、国民が権力に「どうぞ自分たちをそちらの便利なように管理してください」と嘆願するに等しい。テレビで流される政府広報を疑わず、役所に個人番号カードを申請しに行く「善男善女」の姿は、奴隷根性の最大の特徴である思考停止の賜だ。過去に奴隷が反乱を起こした例は記録されているが、現代の奴隷根性の主たちはそれも思い浮かばぬようだ。だからこんなことをしでかす政権が、過半数の支持率を得て安泰でいられる。だが現在進行しているのは、長年権力が夢見てきた「国民総背番号制」の究極の姿が完成に向かうプロセスなのだ。それが確立されてしまった暁には、恐るべき警察国家が出現しよう。奴隷根性の主たちは秘密保護法や戦争法に懲りず、またもや子孫に極悪の遺産を残すつもりか。 (成澤宗男)

▼身近な防犯カメラの映像がリアルタイムでネットで垂れ流し状態で流出していたというニュースには驚いた。これらの映像はハッキングされて盗まれたのではなく、購入時のまま「初期パスワード変更」をせずに使用されている正規のカメラからのものだという。ロシアのウェブサイト「Insecam」によれば、初期パスワードの情報はインターネットで簡単に調べられるため「パスワード変更の啓蒙活動」のためにこのサイトを運営していると説明しているらしい。うーむ。なんという恐ろしい世界に我々は生きているのだ。
「初期パスワード変更」は、セキュリティに対して無自覚な人には、あってないものかも。スマホやパソコン、防犯カメラも無事に作動すればそのままでいいや。再設定もめんどくさいし......などなど。
 で、問題のマイナンバーだが、たとえばこんな感じでだだ漏れになるのではないか、とやはり危惧してしまう。個人的には、正しく隙のない世界より、多少ゆるい世界で生きていきたい。 (本田政昭)

▼脳梗塞で倒れた義父(91歳)のその後である。元の一人暮らしをあきらめて介護付き有料老人ホームを、しかも生まれ育った北海道を離れて東京へくることを決断した義父を1月はじめに迎えに行ってきた。義父の年金で入れる老人ホーム探しに時間がかかり入院が長くなったことが幸いしたのか、リハビリに励んだ義父は、なんと短い距離ならば杖で歩けるようにまで回復! 医者も驚いていた。
 さて老人ホームを決めたあと、わかったことがある。義父の年金が昨年12月から約1割も減額されたのだ。義父は元国鉄職員。1956年6月以前は恩給制度が準拠され、年金保険料の個人負担分がなかった。しかし、国家公務員や地方公務員、旧三公社五現業の職員を対象に恩給分の個人負担分(追加費用分)を年金から削除する「被用者年金一元化法」が2012年に成立していたのだ。予定外のことに計画が......。株式運用で8兆円もの損失を出しておきながら、そりゃないよ。 (吉田亮子)

▼朝ドラ『あさが来た』の五代様はいなくなってしまったけれど『ダメな私に恋してください』で復活。タイトルからしてなんじゃ? だけどもうそんなことはどうだって良く、眼鏡男子の作る大人様ランチに舌なめずり。今クールは月9があまーくないので糖度不足分を補充してくれる数少ない癒やしドラマ。TVer(ティーバー)で次週までに二度見してしまうくらいの大中毒。
 月9『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』と金10『わたしを離さないで』はシリアスで問題を抱えた人ばかりが続々と登場し、結末も不穏そうな上に見応えがありすぎて疲れますが、キャストも脚本もいいのでやはり見ずにすますことはできません。なんとか最後まで頑張ります。
 あおりを食って、その他推理ものと医療ものはタイミングがあえば見る状態。深夜やその他のドラマも含めて結構力作や意欲作が多いのに体力の限界、気力の限界。ごめんなさいといいつつあきらめました。 (志水邦江)


編集長後記

 日本でもお馴染みのアメコミヒーロー、ダークナイトことバットマンが犯罪者と闘う架空の街はゴッサム・シティという。19世紀にマフィアが跋扈し犯罪都市となったニューヨークが「ゴッサム・シティ」と名付けられたことに由来するなど諸説ある。しかし、ニューヨークの愛称もそもそもはイングランドに実在するゴッサムという村に由来する。村はその昔話から「愚か者の街」と呼ばれたという。
 米国にはバットマン前史を描いた「ゴッサム」というドラマがある。ゴッサム・シティという悪の街そのものに魅力を感じたのだろう。以前、仮面ライダー鎧武の舞台、沢芽市の形がゴッサム・シティと同じでオマージュだと話題になった。石ノ森氏のレンジャーはコミカルさが売りだが、それに比べライダーはダークヒーローだからか。むろん現代日本にリアル・ゴッサムは存在しない。しかし一部の有力者が力を及ぼすリトル・ゴッサムはある。キャラクター消費でとどまらず、なぜ街は悪やヒーローを生み出すのか目をこらしたい。 (平井康嗣)