1078号
2016年03月04日
▼『セブン-イレブンの罠』(金曜日刊)や本誌連載「セブン-イレブン "鈴木帝国" の落日」など、コンビニ・フランチャイズ問題を第一線で追及し続けた経済ジャーナリスト・渡辺仁さんが自宅で急死しました。享年65。渡辺さんは出身地の長崎で父を見送ったあと、そこで独り暮らしをしながら取材・執筆を続けていました。
全国のコンビニオーナーや弁護士らと連絡を取り合い、各地に取材に出かけてはそのつどハイライト部分を携帯メールで送ってくれました。東京に来る時の定宿は池袋。私とはいつも上野のアメ横で一杯。「鈴木敏文(セブン-イレブンの創業者)が非を認めるまで徹底的にやりましょう!」。広告費をたんまりもらっているメディアは書けないんだ、コンビニオーナーがまともな商売ができるまで闘う......渡辺さんを突き動かしていたのはそんな思いです。ご遺族とともに最後となった部屋に入ると、無数のメモや資料の束から無念の思いが伝わってきました。
「あとは頼みますよ」。書きかけの原稿からそんな声が聞こえてくるようです。合掌。 (片岡伸行)
▼1月下旬、成田空港のサイトが一時的にダウンした。国際的「ハッカー」集団アノニマスが自分たちが行なったとツイッターで表明した。映画『コーヴ』の主演者が成田で入国拒否をされ、拘束されたことへの抗議だった。
アノニマスのDDoS(分散型サービス拒否)行動は、通常サイバー攻撃と言われ、犯罪とされる。集団的にいっせいに対象のサイトを何度も再読み込みし、サーバーをダウンさせる。彼らのもっとも有名な行動は、2010年ウィキリークスへの報復に対する大規模な抗議行動である。当時、フリーソフトウェア財団のストールマンは、この行動は「座り込み」であり、犯罪ではないとし、米国の弁護士も、憲法修正条項1条の言論の自由であると擁護する。
DDoSは、1990年代のメキシコのサパティスタ支援から始まり、当初から、電子的な「座り込み」であり、市民的不服従だと主張されてきた。60年代の市民権運動、ベトナム反戦運動に連なる、インターネット上の新しい市民的不服従である。 (樋口惠)
▼世界三大P遺跡をご存じでしょうか。ヨルダンのペトラ。イランのペルセポリス。そしてシリアのパルミラ。頭文字にPを持つ三つの遺跡。ペルセポリスを訪れた際、荒涼とした台地に突如として現れた古代都市に感動し、この街に暮らした人々に思いを馳せたものです。その時、知ったのが三大P遺跡。以来、ほかの二つもぜひ訪れたいと目論んでいるのですが、内戦が続くシリアではパルミラ遺跡の一部がIS(「イスラム国」)に破壊され、残念でなりません。
「戦争で街を破壊し、支配者が代わり、また新たな街を作る」――イランのガイドさんが言っていた言葉が印象的です。現在まで残っている遺跡は、"勝者の歴史" の一部なのかもしれません。
5年にわたるシリア内戦で初の本格的「停戦」が実施されています(3月1日現在、四日目)。今後の進展を期待しますが、すでに多くの人々が戦禍を逃れ、シリア国外へと脱出しています。破壊され、人がいなくなった街。"遺跡" ではなく、人々が暮らすシリアの街を訪れることのできる日が来ることを願ってやみません。(弓削田理絵)
▼本や雑誌が売れない理由を、ケータイ・スマホの普及に求めるだけでよいのだろうか?最近思うことはPOSデータによる弊害だ。書店や取次店から提供される売上データは有料で開示され、売れ行きや市場在庫を把握しながら増刷の判断に役立つ便利なものだ。ただしそのデジタルな数字は、自身の血となり肉となることはない。POSレジなどなかった時代、書店から回収した「売上スリップ」を触り数えて、その本がどんな売れ方をしたのか体感として受け止めた。身体に蓄積されたデータは変化を伴い、新たな企画につながることもある。こんにち、他社の売上データの画面を前に企画を立てる出版社があるという。その結果、店頭はいま売れている企画(発刊時点では概ね売れていた企画になる)で溢れ、読者の支持を得ることなく返品される。歴史ある名門出版社が刊行する大層な人文書であろうとも、理念なき出版は必ず馬脚を現す。一方、実用書であっても、役に立つオリジナルな企画は表紙が輝いて見える。危機を内包しているのだ。(町田明穂)